2024年12月9日

『シンボルエコノミー 日本経済を侵食する幻想』 水野和夫・著 vol.6619

【名著】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/439611706X

本日ご紹介する一冊は、ベストセラー『資本主義の終焉と歴史の危機』で知られる経済学者、水野和夫氏による力作。

『資本主義の終焉と歴史の危機』
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今回の書籍では、資本を投下しても利潤が出ない資本主義の「死」に直面してもなお、成長を求め、拡大していく「シンボルエコノミー」について書いています。

本書によると日本は、リアルエコノミーの世界でいち早くゼロ金利に到達し、近代の次の社会を構築するチャンスを得た。

にも関わらず、「生産性」「経済成長」などの幻想に囚われ、シンボルエコノミーの世界に巻き込まれているというわけです。

著者はこれを、<20世紀までの原則「成長とインフレがすべての怪我を治す」が20世紀末に変異して、「資産インフレがすべての怪我を治す」に置き換わっただけ>と説きます。

現在の日本では、この資産インフレで富裕層がますます富を増やし、労働者が賃金が増やせないでいるわけですが、著者はここに批判を加えます。

いわく、<定常状態に近づくほど成果(付加価値)をいかに公正に分配するかが、ますます重要性を帯びて>くる。

そして、中間層が没落し、ビリオネアが跋扈する現在の世の中を、ケインズやヒューム、ミルの言葉を引きながら冷静に批判するのです。

日銀やマスコミ、政治家がひた隠しにする日本経済の「現実」を、動かぬデータを持って突きつけており、読者はこの国の厄介な「課題」と向き合わざるを得なくなります。

その課題とは、財政再建、社会保障制度の持続性、日米同盟のあり方など。

本書には、いかに日本が過去、アメリカの政策に振り回されてきたか、いかに富裕層(日本の場合大企業)が労働者を搾取してきたか、過去の政治改革が問題だったかが書かれており、当事者にとっては、広まって欲しくない本に違いありません。

資本主義の行動原理「より遠くへ、より速く、より合理的に」から、「より近く、よりゆっくり、より寛容に」。

新たな社会の仕組みを構築する上で、大きなヒントになる本だと思います。

さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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リアルエコノミーは、人々が必要とする財・サービスを提供するために、L(労働)とK(資本)を用いてGDP(実質国内総生産)を生み出す世界です。対してシンボルエコノミーは、ROE(自己資本利益率)を引き上げてK(資本)を増殖させる世界です

シンボルエコノミーではGの極大化が最終目的であって、中間手段であるWが捨象されます。Wに含まれている労働力が軽んじられるようになったのです

エネルギーと食料は共に人間が生きるのに欠かせないものであり、需要は増加傾向にあります。それに対して、供給サイドから見ると、天候や戦争といった予期せぬ事態によって供給が大幅に制限されることがあり、変動が激しくなる傾向があります

日本が「定常状態」に入っているとの仮説が正しければ、日本には再びゼロインフレに戻ってくるであろうと私は予想しています

財・サービスの物価は景気の良し悪し(失業率)に連動しなくなり、代わりに資産価格が乱高下するようになりました

資本の自由化を進めれば進めるほど、ある国の異常な量的金融緩和によって生み出されたマネーは他国に容易く移動できるわけですから、その国の財・サービス価格を押し上げることになりません

近代化とは機械化であって、機械を動かすにはエネルギーが必要です。エネルギーの過剰消費、すなわち過剰供給が資本の自己増殖には不可欠なのです

リアルエコノミーを超える円安が、日本の1人当たりGDPランキングを低下させている原因

近代社会の行動原理は「より遠く、より速く、より合理的に」です。半導体と自動車はこの原理を実行に移すことのできる象徴的な製品です

人口が1億人を超える日本は特定の産業に特化することはできません

非正規化された労働者は、「ショック・ドクトリン」のもとでいつでも解雇できるモノとなってしまったのです

「中間層は哲学を受け入れることができる最も数の多い階層をなしている。したがって、すべての道徳論は主に彼らに対して話しかけられるべきである。地位の高い人びとはあまりにも快楽に没頭しすぎ、貧民は生活必需品を用意することに時間をとられ、冷静な理性の声に耳を傾けない」(ヒューム)

「異次元金融緩和」やアベノミクスは国民を「幻想」の世界に招き入れ、「不愉快な問題」から目を背ける政策だったのです。日本の「不愉快な問題」とは財政再建、社会保障制度の持続性、日米同盟のあり方などです

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本書を読めば、現代のビリオネアがなぜ盛んに投資を煽るのか、なぜROEを重視するのか、なぜ享楽的な現世での「よりよい暮らし」を重視するのか、その理由がわかると思います。

シンボルエコノミーに振り回されないために、またやがて到来するであろう新しい秩序の準備をするために、ぜひ、読んでおきたい一冊です。

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『シンボルエコノミー 日本経済を侵食する幻想』水野和夫・著 祥伝社

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◆目次◆

はじめに
第1章 幻想のインフレ時代
第2章 経済成長という病
第3章 リアルエコノミーvs.シンボルエコノミー
第4章 中心の喪失
第5章 作られたバブルと、ビリオネアの増殖
おわりに

参考文献

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