2022年1月31日

『スイカのタネはなぜ散らばっているのか』稲垣栄洋・著 西本眞理子・絵 vol.5929

【これはすごい。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/479422298X

本日ご紹介する一冊は、ひさびさに唸らされた教養本。

植物が子孫繁栄のために行っている戦略を、静岡大学大学院農学研究科教授の稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)さんが、雑学てんこ盛りでまとめた、知的好奇心くすぐる一冊です。

「まえがき」で書いているように、動くことのできない植物が勢力を広げるチャンスは、わずか2つ。

それが「花粉」と「種子」です。

ご存知の通り、植物は「花粉」を飛ばしたり、虫に花粉を運ばせたりして、受粉します。こうして遠くに子孫を残して繁栄するのです。

「種子」はさらにすごくて、鳥などに実を食べさせ、遠くに移動します。しかも種子は乾燥に耐えられ、時機を待てる「タイムカプセル」なので、時間・空間を飛び越えて繁栄することができるのです。(2000年前の種子が芽を出した例もあるそうです)

本書には、こうした植物たちの驚きの生存戦略や敵に食べさせ、かつ滅亡しないための工夫が書かれている他、われわれが普段口にする野菜や穀物、果実の雑学が書かれています。

商品開発のヒントにするのも良し、ビジネス戦略として役立てるのも良し、はたまた会食やセミナーのネタとして活用するのも良し。

老若男女にウケるネタがまとめられており、これは重宝する一冊です。

さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。

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夏が近づくと、他の植物が枝葉を伸ばし、生い茂る。そんなところで、小さなタンポポが頑張っても、光は当たらず生きていくことができない。そこで、強い植物との無駄な争いを避けて、地面の下でやり過ごすのである。ライバルが多い夏にナンバー1になることは難しいから、ライバルたちが芽を出す前に、花を咲かせて種を残すという戦略なのである

カエデの種子は、二枚のプロペラがついたような形をしているのだ(中略)プロペラが回り滞空時間が長くなることによって、風に乗って移動するのである

じつは、オナモミの実の中には、細長い種子が二つ入っている。やや長い種子は「先んずれば人を制す」とばかりに、早く芽を出す。早く芽を出せば、他の植物よりも有利に成長することができるのだ。まさに、ことわざのとおりである。しかし、状況もわからないまま早く芽を出すのは危険すぎる。そこで、「急いては事を仕損じる」状況に陥ったときに備えて、やや短い種子が遅れて芽を出すのである

体の小さなリスやネズミは食いだめすることができない。そのため、すぐにドングリを食べずに土の中に隠しておく。そして、食べ物の少ない冬の間、貯めておいたドングリを少しずつ食べていくのである。ところが、一部のドングリは食べ残されたり、食べ忘れられたりもする。こうしたドングリが芽を出してドングリの木になるのである

初夏にササの実がなると、その秋はネズミの被害でイネは凶作になる

点を三つ並べた地図記号は茶畑である。チャの実の中には種子が三つ入っている。そして、チャが茶色く熟すと、実が割れて、三つの種子が現れる。三つの種子の並ぶ形が、茶畑のマークとなったのである

ピーナッツは実際には木の実ではなく、エンドウと同じマメ科の植物である。しかし、硬くてナッツ類によく似た食感なので、豆のナッツ(ピー・ナッツ)と呼ばれているのだ

じつは種子が旅立つのには、大切な理由がある。それは、親植物からできるだけ離れるためなのである。親植物の近くに種子が落ちた場合、もっとも脅威となる存在は親植物である

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「思わず人に話したくなる」ネタが入っている本は良い本だと断言できますが、本書の場合、それが最低5つは出てきます。

カエデの種子の航空力学、アリをしたたかに利用するスミレの戦略、天敵でありパートナーであるリスやネズミの数をコントロールするドングリの豊作/不作戦略、ピーナッツの名前の由来、チアシードがダイエットに効果がある理由…。

これ一冊で、10回分の講演ネタが仕込める、濃密な雑学本です。

ぜひ読んでみてください。

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『スイカのタネはなぜ散らばっているのか』稲垣栄洋・著
西本眞理子・絵 草思社

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◆目次◆

風で旅するタネの話
動物に運ばれるタネの話
まかれるタネの話
まかれないタネの話
時を超えるタネの話
食べられるタネの話
豆と呼ばれるタネの話
芽生えで食べられるタネの話
油を取るタネの話
果物のタネの話
野菜のタネの話
植物にとって種子とは何か?
番外編 すごい種子

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