2021年8月19日

『多様性の科学』マシュー・サイド・著 vol.5820

【成功に役立つもう一つの「多様性」とは?】
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本日ご紹介する一冊は、英『タイムズ』紙の第一級コラムニスト、マシュー・サイドによる最新刊。

著者は、ベストセラーとなった『失敗の科学』や『非才』など、興味深い書籍を何冊か出していますが、今回のテーマはなんと「多様性」。

※参考:『失敗の科学』
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※参考:『非才』
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『失敗の科学』では、副鼻腔炎の手術で亡くなったエイレンの医療事故、ベテランパイロットが致命的なミスをし、10が亡くなったユナイテッド航空173便の悲劇、正しい治療法と信じられ、長年人々の命を奪っていた瀉血療法、刑務所訪問により80~90%の問題児が「更生した」と信じられた「スケアード・ストレート」プログラムなど、人類史上最悪の失敗事例を紹介していましたが、これらはいずれもわれわれのバイアスが関係したものでした。

本日ご紹介する『多様性の科学』は、この人間のバイアスを未然に防ぎ、集合知を生み出す画期的な方法について、科学的な見地から論じられています。

今回も、多様性の欠如によって失敗した組織の事例がてんこ盛りです。

歴史上の悲劇を劇的につづる表現力、無味乾燥な科学論文をわれわれの身近な知識に翻訳する力。さらに、9.11同時多発テロで失敗したCIAへの批判から始まったのが、最後は同組織が多様性を取り戻し、名誉挽回した後日談で締めくくるという構成力。

やはりマシュー・サイドの文章力は半端じゃありません。

最近は、日本でも多様性の議論が巻き起こっていますが、そのほとんどは本書でいう2つの多様性のうちの1つ、「人口統計学的多様性」。

本書では、これに加え、「認知的多様性」について、深く論じています。

なぜ人類が発展したのか、なぜイノベーションを起こせたのか、本書には、その秘密が書かれていると同時に、それを阻む<画一的集団の「死角」><エコーチェンバー現象><平均値の落とし穴>といった落とし穴が書かれており、多様性の失敗を防ぐためのヒントもまとめられています。

さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。

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アメリカ人は手前や中心にある「もの」に重点を置き、日本人は「背景」に着目する傾向が見られた

チームで難問に挑む際にまずやるべきことは、問題そのものをさらに精査することではない。むしろ大事なのは、一歩下がってこう考えることだ。我々がカバーできていないのはどの分野か?

ある調査によれば、通勤手段には一般的に性差が見られるという結果が出ている。これは町議会が当初気づいていなかった点だ。たとえば男性は車で通勤することが多いが、女性は公共交通機関の利用や徒歩のほうが多い。フランスでは公共交通機関の乗客の66%が女性というデータも出ている

集合知を得るには、賢い個人が必要だ。それと「同時に」多様性も欠かせない。そうでなければ同じ盲点を共有することになる

2014年、南カリフォルニア大学の組織マネジメント専門家、エリック・アニシックは、56カ国のヒマラヤ登山隊(計3万625人)による5100回以上の遠征(すでに終了したものも含む)に関するデータを集めた(中略)分析のポイントとなったのは、登山隊が属する国だ。つまり国による文化の違いに着目した。権威ある者を敬う文化圏では、従属者が意見を表明するのを控える傾向が強い。(中略)答えは明らかだった。進言が抑圧されがちな支配型ヒエラルキーを持つ文化圏のチームのほうが、死者の数が「著しく」多かったのだ

アメリカ移民が起業家になる確率は、国内で生まれた人と比べて2倍高い

ノーベル賞を受賞した科学者は、その他の科学者に比べて楽器を演奏する者が2倍多いことがわかった

天才族の中でイノベーションを起こすのは、人口の18%のみにとどまるのだ。1人で発明にたどり着くのはその半数。一方ネットワーク族は、99.9%がイノベーションを起こす

人は大きなコミュニティに属すると、より狭いネットワークを構築する傾向がある

人間の脳が大きいのは「結果」であって「原因」ではない。知恵やアイデアの蓄積が脳の拡大をもたらしたのであり、その逆ではないのだ

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どうすれば諜報組織の調査能力を上げられるのか、どうすれば企業のイノベーションを促進できるのか、どうすれば産業の中心となる都市を作り上げられるのか…。

すべての鍵を握る「多様性」と、それが育まれるための条件が書かれた、じつに興味深い論考です。

ぜひ読んでみてください。

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『多様性の科学』マシュー・サイド・著
ディスカヴァー・トゥエンティワン

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◆目次◆

第1章 画一的集団の「死角」
第2章 クローン対反逆者
第3章 不均衡なコミュニケーション
第4章 イノベーション
第5章 エコーチェンバー現象
第6章 平均値の落とし穴
第7章 大局を見る

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