2021年7月21日

『「ひいき」の構造』島田裕巳・著 vol.5802

【人はなぜ贔屓するのか?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344986296

「これからもどうぞご贔屓(ひいき)に」

商売ではよく使われる言葉ですね。

本日ご紹介する一冊は、この「贔屓」の構造を、作家・宗教学者の島田裕巳さんが、豊富な事例とともに解説した一冊。

タイトルでわかった方も多いと思いますが、『「いき」の構造』(九鬼周造)、『「甘え」の構造』(土居健郎)に連なる論考で、なぜわれわれ人間が「贔屓」するのか、その意味と構造を説いた興味深い論考です。

商売とは、突き詰めればいかに「贔屓」にしてもらえるか。つまりお客様に特別扱いしてもらえるかどうかです。

そのためには当然、企業の側もお客様を特別扱いしなければならないわけですが、本書には、それが上手く行っている事例とその理由が載っています。

歌舞伎や相撲、遊郭、さらには宝塚やAKB48まで、さまざまな事例を用いながら、贔屓の構造を明らかにしており、とても楽しく読めました。

商売で利益を出すためには、金銭ではない手段で、どれだけ特別な感情を持ってもらえるか。

そのためのヒントとして、本書は役立つ一冊です。

さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックしてみましょう。

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遊郭や歌舞伎の舞台は、娑婆と呼ばれる現実から隔絶した世界であり、社会の矛盾が生み出した場所でもあるが、そこを訪れる者に、途方もない夢を見させるところでもあった。贔屓にする、ご贔屓になるということは、高等な文化行為でもあり、たんに金銭によって実現されるものではなかった。贔屓となることに、多くの金と労力が払われたのは、それに限りない価値があると考えられたからである

昔、歌舞伎役者の贔屓になるには、芝居茶屋を利用しなければならなかったわけで、すでに見たように、それには相当の費用がかかる。費用をかければかけるほど、茶屋での待遇は良くなる。客自身が、茶屋のご贔屓になるわけである。そして、上等なご贔屓であればあるほど、より目立つ席に案内され、そのことが周囲にも瞬時に伝わる。江戸時代の芝居空間は、役者だけではなく、ご贔屓が脚光を浴びるものでもあったのだ

相撲贔屓は歌舞伎ほど金を注ぎ込まない

実質的に、贔屓は、贔屓の対象を独占できないと言える。役者も、相撲取りも、そして遊女も、その価値は、個人に備わったものではなく、あくまで彼らが活動する舞台となったシステムに依存している

武士が戦場で勇猛果敢に戦ったのは、勝利に貢献することで恩賞を得るためである。痛手を負ってまで戦ったにもかかわらず、十分な恩賞を与えられなければ、不満は募る。だからこそ、贔屓偏頗はあってはならないこととされたのである

期間が限られたものであることは、ファン自身が認識している。自分の贔屓するスターは、いつまでもトップスターの座にはいないからである(中略)ファンとしての期間に限りがあることが前もって理解されているために、多くの金と労力を費やそうとするのだ(宝塚の場合)

新宗教の入信動機としては、「貧病争」ということが言われる。貧しさ、病気、そして家庭内の争いごと

たとえ偶然に作られた集団であっても、自分がそこに所属しているというだけで、その集団を、さらにはその集団が含まれるより大きな集団を贔屓する。それは、人間というものが、自分の味方になってくれる集団、つまりは身内を必要としているからでもある

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「贔屓」は、一歩間違えると、「依怙贔屓」となり、ネガティブに捉えられる恐れがあります。

一連のオリンピックのスキャンダルも、「依怙贔屓」と思われることが炎上を加速させた面があると思います。

「贔屓」を知ることは、商売繁盛の秘訣を学ぶことであり、また人間関係における暗黙のルールを知ること。

商売人の教養として、ぜひ読んでみてください。

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『「ひいき」の構造』島田裕巳・著 幻冬舎

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◆目次◆

第1章 「ひいき」とは何か
第2章 「ひいき」の文化的基盤
第3章 相撲の贔屓と廓の馴染
第4章 判官贔屓の深層心理
第5章 贔屓から推しへ
第6章 集合的沸騰としての贔屓
第7章 常連と一見
第8章 依怙贔屓の正体
おわりに 贔屓の作り方

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