2020年11月30日

『国道16号線 「日本」を創った道』柳瀬博一・著 vol.5648

【これは名著だ】
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大変個人的な話になりますが、高校時代はユーミンを聴くのが好きでした。

その後、上京して神奈川県大和市に住み、相模大野に実家がある妻と結婚し、家族でよく、父親が昔住んでいた三崎に出掛けていました。(三崎で最初に泊まったのは、観音崎京急ホテルです)

家から近かったので、相模原にあるブックオフ一号店にも行きましたが、この一号店のチラシを配ったのは、昔、相模原でポスティング会社の営業所長をやっていた、栢野克己さんだそうです。

と、前置きが長くなりましたが、要するに、国道16号線エリアにゆかりのある土井が今、一番推したい本が、本日ご紹介する一冊だということ。

『国道16号線 「日本」を創った道』は、国道16号線を軸に、日本の歴史を編み直し、日本の発展と戦後カルチャーの誕生、ビジネスの変遷と街の変容を描く、ものすごい作品。

オビには、こんな訳のわからない文言が書かれているのですが、まさにこのすべてが「国道16号線」という一本の線で結ばれる、とてつもなく知的興奮あふれる一冊です。

<首都圏をぐるり、330キロのこの全国一混雑する道は、日本誕生から頼朝、家康、ユーミン、そして令和までをつなぐ「地形」なのだ──>

土井も最近、長崎に住んで、この地がなぜ日本の要衝となったのか、いろいろと気づかされていますが、国道16号線には、長崎と同じように、発展する必然性があった。

本書では、そのことを丹念な取材と文献、考察によって明らかにしています。

著者は、『小倉昌男 経営学』矢沢永吉『アー・ユー・ハッピー?』などを手掛けた、元日経BPの名物編集者で、現在東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授(メディア論)の柳瀬博一氏。

土井も面識がありますが、博覧強記で知られる方で、本書でもその深い教養がいかんなく発揮されています。

従来言われていた、大きな河と平野のある地域ではなく、「山と谷と湿原と水辺」がワンセットになった少流域地形が人々を呼び寄せた、という主張には、思わず拍手喝采。

歴史や文明、産業の発展を考える際の、貴重な一視点になること間違いなしです。

歴史、文化を論じた本ではあるのですが、ある種の偶然によって栄えた地域が、いかにして人や文化を呼び込み、発展して行くのかを見るには、絶好のテキスト。

元『日経ビジネス』記者の著者らしく、「そごう」や「マイカル」「ダイエー」「ブックオフ」など、国道16号線沿いで勃興した企業の栄枯盛衰にも触れているのが、ビジネスパーソンには刺さると思います。

さっそく、本文の中から気になった部分を赤ペンチェックして行きましょう。

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日本各地で生糸生産に拍車がかかった。中でも栄えたのが八王子だ。古くから機織業が盛んで、江戸からも近く、背後には山梨や長野といった養蚕地が控えている。輸出の拠点となる横浜とも街道でつながっている。八王子に各地の生糸が集積し、横浜に運ばれて、世界中に輸出された

16号線の原型となった道路は、日本のシルクロードとして殖産興業を担い、日本初の近代的な軍用道路として富国強兵を担ったのである

都市の中心から郊外へ、鉄道利用客から自動車利用客へ、定価からディスカウントへ……

16号線は「小流域」地形が数珠つなぎになった道路なのだ

巨大な一級河川の氾濫原を田んぼにしようとなると、大掛かりな治水技術と大量の人手が必要になる。個人や小さな村の単位では、とても無理だろう。古代の稲作は、まず小網代のような小流域に手を入れて棚田を作るところから始まったはずだ

小流域の河口干潟は、古代人にとってタンパク質の宝庫だった。このため16号線エリアには無数の貝塚が存在する

台地地形は、たくさんの古代人の暮らしの場所となり、馬を育て、武士団を生んだ。鎌倉幕府が成立したのも、数多くの戦国武将が関東で活躍したのも、最後にして最大の武家政権である江戸幕府が設けられたのも、16号線エリアの台形地形と密接にかかわっている。近代になってからはかつて馬を育てた台地が飛行場となり、戦前は日本の富国強兵の柱に、戦後は在日米軍の拠点となることで、日本の政治、経済、文化に影響をもたらし続けた

数多くのミュージシャンが16号線から音楽を紡いできた。なぜ音楽を生む道となったのか、カギとなるのは3つの要素、(1)軍(2)シルク(3)港だ

ポケモンというゲームの世界観は、16号線エリアの自然と住宅と街がごちゃっと入り混じった環境が生んだ。なにしろ町田市には鶴見川の源流があるため、凸凹の小流域地形がたくさん存在する。そしてプレーヤーであるポケモントレーナーは、旧石器時代から縄文時代にかけての狩猟採集民的な存在だ

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巨大経済圏が地形、時代の要請、そして先人たちの構想力によって作られたというのがよくわかる内容。ビジネスパーソンの教養本として、ぜひ読んでおきたい一冊です。

冒頭、16号線をドライブしているかのような道案内を聞いたかと思うと、それがたちまち地形論、文明論、カルチャー論にまで展開して行く。

じつに刺激的な論考です。

この尋常ではない固有名詞の数にめげずに完読できるのは、おそらく昭和生まれの方々だと思われますが、そんな方々にとって、ここに登場する地名、店名、人物名、作品名は、おそらく「ごちそう」でしょう(笑)。

文明論として読むのもよし。昭和のノスタルジーとして読むのもよし。

著者が20年かけて完成させた「個人的宿題」ということですが、予算も締切も気にせず作った作品のすごさを思い知りました。

これからの時代の産業、文化、ビジネスを構想するヒントとして、ぜひ読んでおきたい一冊です。

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『国道16号線 「日本」を創った道』柳瀬博一・著 新潮社

<Amazon.co.jpで購入する>
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◆目次◆

はじめに
第1章 なにしろ日本最強の郊外道路
第2章 16号線は地形である
第3章 戦後日本音楽のゆりかご
第4章 消された16号線──日本史の教科書と家康の「罠」
第5章 カイコとモスラと皇后と16号線
第6章 未来の子供とポケモンが育つ道
あとがき
16号線をもっと知るためのリスト

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