2020年8月3日

『大分断』エマニュエル・トッド・著 大野舞・訳 vol.5568

【エマニュエル・トッドの予言】
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本日ご紹介する一冊は、ソ連の崩壊、アラブの春、トランプ大統領の勝利、英国のEU離脱などを予言したとされるフランスの歴史家、文化人類学者、人口学者、エマニュエル・トッド氏による最新の未来予測。

著者は、パリのソルボンヌ大学で学んだ後、ケンブリッジ大学で博士号を取得した秀才で、各国の家族制度や識字率、出生率、死亡率などに基づき、これまでにことごとく予言を的中させてきています。

本書は、そんな欧州を代表する知性が、日本の読者に向けて、今後の世界の変化と日本の課題・解決策を説いた一冊。

「高等教育が無能なエリートたちを生み出した」
「教育は支配階級を再生産するためのものになった」
「能力主義が階級の再生産をもたらす」
「グローバリゼーションは終わるが“世界化”は終わらない」

などと、興味深い見出しが並んでいますが、なるほど著者独自の歴史の見方に触れていると、今世界に起こっていることの本質的変化がよくわかります。

エリート教育が従順さを生むことの弊害、能力主義が崩壊に向かっているという見方、日本の問題が男女関係にあるという見方など、いずれも斬新かつ目からウロコでした。

本書を一番読むべきなのは、政治家や官僚だと思いますが、ビジネスパーソンもこれからの日本の課題を見つけ、ビジネスで先んじるために読んでおきたい一冊。

もやもやしていた疑問が、パーッと晴れる、そんなインタビューです。

さっそく、本文の中から気になったポイントを赤ペンチェックして行きましょう。

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次第に社会が複雑化し、ますますその深刻さが増している現代社会では、教育は経済的、社会的な成功を収めるためのツールとなってしまいました

とても優秀と言われる学歴を持つ人間であれば、必ずその人はある程度の能力があり、かつ順応主義者でしょう。だから雇用主は安心して雇うことができるのです。しかしここで忘れてはならないのは、社会全体がそうなってしまったら、その社会の進歩は止まってしまうということです

今のシステムの基盤は、野望、順応主義、そしてお金でしょう

教育の評価基準の特殊な点は、上層の人々の権力を驚くほど正当化してしまう点です。またそれは同時に、高等教育を受けなかった人々の自信を破壊してしまうものでもあります

現代社会の共通点は、単純に不平等が顕著になってきているというだけではありません。ただの経済の機能不全でもありません。共通しているのは、支配階級が目的を失っているという点です

長くて優秀な学歴をひたすら積み上げることばかりにエネルギーを費やしていると、考える時間など持てないのです。自分とは何者かということを考える時間がない、つまり知的になる時間がないままになってしまいます

マイケル・ヤングが気づいたのは、大衆層の中の優秀な人たちが進学すると、社会は再び階級化するだろうということでした。そして上層には、上層にいると考える人たちによって新たなグループが形成されるのです

人口減少に対処するために日本に必要なのは、経済状況の改善ではなく、男女の関係に大変革が訪れること

社会の最優先事項は、生産の前に出産

自由貿易は、先進諸国において残忍な形で不平等を拡大し続けています。自由貿易が優遇するのは資本家と高齢者です

大抵の場合、人は気がかりになっていることについて、真実とは逆の記号を付随させて表現するもの

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本書のなかでもっとも興味を持ったのは、著者が実践しているという、「絶対値による会話分析法」。

なるほど、好き嫌いや善悪という表面的な軸に惑わされない、時代を見る冷静な思考法だと思いました。

これが読めるだけでも、収穫だと思います。

ぜひ、読んでみてください。

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『大分断』エマニュエル・トッド・著
大野舞・訳 PHP研究所

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◆目次◆

第1章 教育が格差をもたらした
第2章 「能力主義」という矛盾
第3章 教育の階層化と民主主義の崩壊
第4章 日本の課題と教育格差
第5章 グローバリゼーションの未来
第6章 ポスト民主主義に突入したヨーロッパ
第7章 アメリカ社会の変質と冷戦後の世界
訳者あとがき・解説

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