2019年4月18日

『PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』 ローレンス・レビー・著 井口耕二・訳 vol.5259

【傑作】
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本日ご紹介する一冊は、『トイ・ストーリー』『ファインディング・ニモ』をはじめ、数多くの傑作を世に放った世界有数のアニメーション企業、ピクサーの元CFOが、その舞台裏を語ったノンフィクション。

オビには「世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」と書いてあるのですが、これだといかにも堅物のCFOが実務の話をする、といった感じでどうにもそそらない。

じつは本書は、元々ハーバードの法学部卒で、シリコンバレーで順調なキャリアを重ねていた著者が、スティーブ・ジョブズに口説かれ、なぜかまったく事業化のめどがたたなかったピクサーの経営に巻き込まれていく、というストーリー。

当初、転職に難色を示していた著者が、ピクサーで働く天才たちとその創造性に魅了され、奇跡の瞬間を実現していくという、感動ストーリーなのです。

どんな大ヒットを飛ばしても、利益は微々たるもので、人件費は確実にかさんでいく。かろうじてジョブズ個人のお金に支えられているものの、ディズニーにはガチガチに権利を押さえられ、今後10年は自由に事業が展開できない。おまけにジョブズがスタッフにストックオプションを与えていなかったため、現場の経営陣に対する信頼は最悪…。

まったく未来が見えない状況で、ジョブズに一刻も早く上場するように迫られた著者が、どうやってストックオプションを付与し、ピクサーの文化を守り、チームを勝利に導いていったのか。

ジョブズ自身、アップルを追われた後で、このピクサーの成功は、彼の「返り咲き」を意味するものだっただけに、上場前夜のストーリには、独特の緊張感が漂っています。

じつにワクワクするストーリーで、これはぜひ読むことをおすすめします。

さっそく、ポイントをチェックして行きましょう。

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「きれいなグラフィックスを作れば人を数分は楽しませることができる。だが、人々を椅子から立てなくするのはストーリーなんだ」(ジョン・ラセター)

ジョンとエドを前にそこまでのことを思い返していたら、ある想いがわき上がってきた。このふたりは、商業的な成功や称賛がないに等しい状態で、リーダーとして何年も作品に打ち込んできた。彼らは勝つ。勝つ側の人間だ。いつ、どこで、どのようになのかはわからないが、それだけはまちがいない。いつか、必ず、勝つ。そう確信したのだ

「ローレンス、きみは、もっと自分の直感を信じたほうがいい。それだけの経験は積んでいるはずだ。スティーブの望みをかなえられなければ、あるいは、きみがすべきだと思うことができなければ、そのときは辞めればいいんだよ」

私は、押しよせる赤字をなんとかするために雇われたのに、最初に考えたのが、多少なりとも売れている製品を切り捨てるべきかもなんて

理由はともかく、私は、この会社にいることを誇りに思うようになっていた。それはまちがいない。単なる仕事以上の感情をピクサーに抱くようになっていた。ここの人々がしてきたこと、いま、やろうとしていることはあり得ないほどすごい。クレイジーだ

ほどなく、アニメーション映画の財務モデルができあがった。粗削りとしか言い様のないものだったが、自分たちのモデルだ。じっくり学んで、完成度を上げていけばいい。出発点としてはこれで十分だ。サラも私も小躍りした。ひっそりとした小さな勝利がびっくりするほどの喜びをもたらしてくれることがある。我々にとってはそういう勝利だった

すばらしい物語が生まれる土壌となっているものを、それがなんであれ、守らなければならないのだ

会社は、成功すると保守的になる。創立当初はたしかにあった創造性の炎が、成果を求める圧力で消えてしまう。成功すると守るものが増え、同時になにかを失ってしまう。勇気が恐れに圧倒されるのだ歯がみするほどくやしい。こうなったら、なにがなんでもIPOを大成功させてやる。世界の2大投資銀行をあっと言わせてやるのだ。彼らは投資銀行界の王かもしれないが、全能じゃない。それを思い知らせてやる

すばらしいストーリーと新たなテクノロジー、熟達の経営がそろった会社が未来を切りひらくのです(ハロルド・ヴォーゲル)

「おめでとうございます、スティーブ。ビリオネアになりましたね」取引初日の終値は39ドルだった。つまり、ピクサーという会社の市場価値は15億ドル弱。スティーブは掛け値なしでビリオネアになったのだ(中略)後日聞いた話によると、スティーブは、隣室から、旧友でオラクル社の創業者兼CEOのラリー・エリソンに電話をかけたという。口にしたのは一言だけ──「ラリー、やったよ」だった。翌日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、次のような見出し
でピクサーIPOを報じた。
スティーブ・ジョブズ返り咲き。ピクサーIPOでビリオネアとなる

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よく書かれた起業物語、再生物語は、いつでも読者をワクワクさせるものですが、本書もまたそんな一冊です。

訳者は『スティーブ・ジョブズ』などで知られるベテランの井口耕二さんが担当しており、日本語訳もバッチリです。

夢を見ることは尊い行為ですが、誰かの夢を支える行為も、同じくらい尊い。

本書を読んで、そんな静かな感動を覚えました。

ぜひ読んでみてください。

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『PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』
ローレンス・レビー・著 井口耕二・訳 文響社

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◆目次◆

第I部 夢の始まり
第1章 運命を変えた1本の電話
第2章 事業にならないけれど魔法のような才能
第3章 ピクサー派、スティーブ派
第4章 ディズニーとの契約は悲惨だった
第5章 芸術的なことをコンピューターにやらせる
第6章 エンターテイメント企業のビジネスモデル
第7章 ピクサーの文化を守る
第II部 熱狂的な成功
第8章 『トイ・ストーリー』の高すぎる目標
第9章 いつ株式を公開するか
第10章 ピクサーの夢のようなビジョンとリスク
第11章 投資銀行の絶対王者
第12章 映画がヒットするかというリスク
第13章 「クリエイティブだとしか言いようがありません」
第14章 すばらしいストーリーと新たなテクノロジー
第15章 ディズニー以外、できなかったこと
第16章 おもちゃに命が宿った
第17章 スティーブ・ジョブズ返り咲き
第III部 高く飛びすぎた
第18章 一発屋にならないために
第19章 ディズニーとの再交渉はいましかない
第20章 ピクサーをブランドにしなければならない
第21章 対等な契約
第22章 社員にスポットライトを
第23章 ピクサーからアップルへ
第24章 ディズニーにゆだねる
第IV部 新世界へ
第25章 企業戦士から哲学者へ
第26章 スローダウンするとき
第27章 ピクサーの「中道」
終章 大きな変化
謝辞
訳者あとがき

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