2018年12月21日

『新釈 猫の妙術』佚斎樗山・著 高橋有・訳・解説 vol.5182

【これは名著だ】
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今日のビジネス環境において怖いのは、いつマーケットがどう変化するかわからないこと、いつ誰が敵になるのかわからないとこと、そして自分がどこまで長生きして、いくらお金が必要になるかわからないこと、です。

本日ご紹介する一冊は、そんな現代人の悩みを吹き飛ばしてくれる、強力な一冊。

江戸中期に書かれた剣術指南本『猫の妙術』の新釈版です。

内容は、ネズミ獲りの名人である「古猫」が教えを説くという設定ですが、この教えがじつに深い。

猫の言葉がわかる剣術者、勝軒(しょうけん)が、ある日部屋に戻ったら、そこに猫ほどの大きさの大鼠がいた。

これを退治しようと、技に長けた「黒猫」、強力な気を持って相手を圧倒する「虎猫」、相手の心に寄り添って和らげてしまう「灰猫」が挑むのだが、いずれも虚しく、逆襲されてしまう。

刀折れ矢尽きた勝軒がほとほと困っていると、そこに締まりのない顔をして、毛並みは悪く、躰はふやけ、動きも緩慢の「古猫」が現れ、いとも簡単に大鼠を仕留めてしまう。

なぜ訓練を重ねた強い猫たちが破れ、古猫が勝てたのか。

本書には、その秘密が書かれています。

武芸の極意ではありますが、これが現在の競争環境を生き抜く知恵として、じつに示唆に富んでいる。

これは読まない手はありません。

さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。

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「(前略)現実とは限りのないものなのじゃ。鼠の姿や振る舞いもまた無限。ならばどうする? 技を限りなく増やすのか?」

「現実の無限には、こちらも無限で応じねばならぬ。そのために身につけなければならぬものこそが、道理なのじゃ。鼠を捕るための正しい道理さえ、身のうち心のうちにあれば、必要な技など自ずから出る。自分の知らない技でさえ限りなくな。こうなって初めて、現実の無限に無限で応じることができるじゃろう」

「わかっておらぬな。強い弱いなどというのは、必ず移り変わる。自分だけがいつまでも強く、敵が皆弱いなどということがあるわけがない。おぬしの気がいかに強くとも、必ずそれより強い気の持ち主は現れるのじゃ。どんなに強くとも、強さなどというのはその程度のものよ」

「(前略)浩然の気は、心の内の道理の赴くままに振る舞うことで、どんどん活き活きと働くようになる。相手より強いかどうかは問題ではない。どれだけ道理に寄り添うかなのじゃ」

「どのようにする、だと。それがまたいかんのじゃ。よいか。考えず、しようとせず、ただ心の『感』に従って動くのじゃ。そうすれば、その自然の中に融け込んで形はなくなる。形さえなくなれば、もはや天下に敵無しとなるのじゃ」

「道理」の純粋さを高めよ

「そうじゃろうな。そもそもおぬしは勝つことにこだわり、その先に何を求めておるのかのう。名声か、金か?」

「心にたとえわずかでも、こうしたい、というこだわりがあれば、それは形となって現れる。そして、その形こそが、敵だ己だなどというくだらぬ構図を生む。果たして無意味な技比べが始まりじゃ。これでは、自在な変化などできようはずがない」

「よいか。現実も己が心も、その底にあって動かしておるのは道理なのじゃ。道理には決まった形などない。そこにあるのは変化だけじゃ。だからこそ、現実は移り変わり、それに従って心も自然と移り変わる。変な邪魔さえしなければな」

「『そこ』と『ここ』を分かつのと同じく、生と死も、分かつから恐ろしいのであろうか」
「そもそも、生と死を分けてなんの意味がある。それを分かとうと分かつまいと、死ぬ時は死ぬ。そこを分けて残るのは、苦しみや恐れだけではないか。そして、その苦しみや恐れは、まだ死んでもいないうちから、『死にたくない』『死なないためには』などと頭でっかちで余計な形を生む。そして、道理の自然な変化から人を引き
離し、生を害する」

「教えとは畢竟、相手が自分で見ようとしない場所を指摘することじゃ(以下略)」

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どうでしょう? しびれますよね。

なぜわれわれが競合と和して崇高な目的に向かうことができないのか、なぜ変化に富む環境に、子どものような気持ちで立ち向かうことができないのか、なぜ死ぬことを恐れながら生きなければならないのか。

解説を除けばわずか100ページ足らずの本ですが、そこに名著のエッセンスがびっしり詰まっています。

これはぜひ、読んでみてください。

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『新釈 猫の妙術』佚斎樗山・著 高橋有・訳・解説 草思社

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◆目次◆

新釈『猫の妙術』
第一章 猫、大鼠の退治に臨む
第二章 古猫、「勝負」と「上達」を語る
第三章 勝軒、「世界」を我がものにす
『猫の妙術』解説
『猫の妙術』と「老荘思想」
新釈『猫の妙術』ガイド

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