2018年8月17日

『構想力の方法論』紺野登、野中郁次郎・著 vol.5096

【ビッグピクチャーを描く方法】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822256723

以前、サントリーさんから講演の依頼を受けたことがありますが、その時のリクエストテーマが「構想力」でした。

確かに、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)の経営者と日本の経営者を比べると、明らかに「構想力」に違いがある。

でも正直、日本人はよほど努力しないとアメリカ人が持っているような構想力は持てないと思うんですよね。

以前、ペンタゴンで働くアメリカ海軍のエリートと話したことがありますが、会話から感じたスケール感がすごい。

アメリカ人は、自分たちが世界政府だと思っていますから、視野が広いし、全体を見渡して構想する、という意識があるんですよね。

一方、日本は島国ですから、どちらかというと、「周りで今、何が起こっているのか」「何が脅威なのか」という受け身の意識になりやすい。

言われてみれば、本もそんな風に作っていますよね(笑)。

本日ご紹介する一冊は、そんな構想力が欠如している日本人に、ビッグピクチャーを描く力を持ってもらおうという意欲作。

名著『失敗の本質』、『知識創造企業』などで知られる野中郁次郎教授と、博報堂のマーケティング・ディレクターを経て、現在KIRO(知識イノベーション研究所)代表を務める紺野登氏が、構想力の本質と、具体的な構想の方法論をまとめています。

※参考:『失敗の本質』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4122018331/

※参考:『知識創造企業』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492520813/

さっそく、内容をチェックしてみましょう。

———————————————–

フェルプスのいうように「イノベーションには新しいものの構想を練って開発を行なう創造と、それを先駆的な形で採用する段階のふたつが含まれ」るのであり、重要なのは構想ー創造ー採用(実践)の一連の働きを秩序立ててまとめ進めていくシステムです

構想力とは、個人、組織が発揮するケイパビリティ(能力)であり、想像力、主観力、実践力を合わせた「存在しないものを存在させる力」です。それは新たな現実を紡ぎ出す綜合する力、物語り的(ナラティブ)な知です

構想は、過去・現在・未来にまたがる歴史的想像力によって生み出されるナラティブな智慧

目先の効率を重視する現場主義信仰は構想力の抑制に働きます

技術に優れているのになぜ儲からないのか、といった技術中心の問いは、それ自体が誤っている

構想力とは、よい問い(ビッグクエスチョン)の力でもあります

0(ゼロ)を基準とした正の数と負の数という発想が生まれ、負の数が数として認知されることで数の世界は革命的に拡張しました。「0を加えても引いても、何も変化しない」「0をかけると、何もかもが0になる」「何かを0で割ることはできない」などのように、0(ゼロ)は独特の世界を持ち、そこを起点としてさらなる構想を人間にもたらす存在であり続けています。つまり「存在しないもの」であるゆえに多くを生み出すことになった

「リンゴが落ちるならば、月も落ちるはずだ」という思考実験が行われました。そして、地上と天上とはまったく異なる世界だというそれまでの常識を180度くつがえす視点の転換をなし遂げたのです

構想力にとって、アート(芸術や制作、その行為)は本質に関わるものとなります。真善美を目指し、人間の想像力を解放する媒介となるからです

フランクルは、アリストテレスのいう人生の究極の目的としての幸福に対して、収容所生活のなかで疑問を持ったのかもしれません。彼は極限状況のなかで自殺願望を口にし始めた被収容者たちに「生きる意味」の転換を促します。それは次のような言葉です。「わたしたちが生きることからなにを期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちからなにを期待しているかが問題なのだ」

ツイッターの創業者の一人だったジャック・ドーシーは、知人のアーティストがクレジットカードを受け入れなかったために作品を売れなかったという話を耳にします。ドーシーは身近な小さな事象からの発見を事業や発明に結び付けるというやり方を好むことで知られていました

———————————————–

構想力の本質的な議論も面白いですが、刺激的だったのは、歴史的な「ビッグピクチャー」の例がこれでもかというくらい紹介されていたこと。

現在のパリ、フィレンツェを創った構想力、ケインズ、チャーチルなどの「歴史を変えたビッグピクチャー構想」は、じつに読み応えがありました。

構想のアプローチ方法を学ぶのに、ピッタリの一冊です。

ぜひ、読んでみてください。

———————————————–

『構想力の方法論』紺野登、野中郁次郎・著 日経BP社

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822256723/

<Kindleで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07FT57HNH/

———————————————–

◆目次◆

はじめに 思考のイノベーションの時代へ
第1章 構想力の危機
第2章 構想力とは何か
第3章 知識創造と目的工学
第4章 エコシステムのデザイン
第5章 歴史的構想力
第6章 日本の構想力
あとがきと謝辞

この書評に関連度が高い書評

この書籍に関するTwitterでのコメント

NEWS

RSS

お知らせはまだありません。

過去のアーカイブ

カレンダー