2018年6月25日

『対立の世紀』イアン・ブレマー・著 奥村準・訳 vol.5058

【今後世界は「対立」の原理で動く】
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これまでの経済を読むには、経済合理性を読む、あるいは産業・企業の将来性を読めばそれで十分でした。

しかし、昨今は少々状況が変わりつつあります。

現在、最も経済に影響を与えるのは政治であり、その政治に影響を与える大衆の「怒り」です。

トランプ大統領の登場を挙げるまでもなく、世界は今、グローバリズムの原理よりも「対立」の原理で動いています。

もし、一触即発の状況が生まれれば、ビジネスは大きく影響を受け、どんなに有望なビジネスでも、一夜にして消滅のリスクがあるのです。

ということで、本日ご紹介したいのが、イアン・ブレマーによる話題の論考『対立の世紀』。

スタンフォード大学で旧ソ連研究をし、博士号を取得、フーバー研究所のナショナル・フェローに最年少25歳で就任、コロンビア大学東西研究所、ローレンス・リバモア国立研究所を経て、現在はニューヨーク大学で教鞭をとっている鬼才が、世界がこれから向かう方向性を指摘しています。

さっそく、ポイントを見て行きましょう。

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ブレグジットの推進派たちは、イギリスの国境を取り戻し、他のヨーロッパ人に押し付けられた法やルールを拒むよう、有権者に説いた

これらのリーダーは、政府が大きくあるべきだとか小さくあるべきだとか、税金を減らすべきだとか支出を増やすべきだとか論じているのではない。私たちの生活を支配するルールを定める、「エリートたち」の権利に挑戦しているのだ

彼らは、大勢の人間が、「グローバリズム」と「グローバル化」が期待はずれであったと感じていることを知っているのだ。リーダーたらんとする彼らは、人々の間に境界線を引く能力に長けている。立派な市民たちが自らの権利をかけて既得権者や貪欲な泥棒と闘うという、「われわれ対彼ら」という訴求力のある図式を示す

グローバル化──アイディア、情報、人材、資金、財・サービスの国境を越えた流通──によってつながった世界が生まれたが、それによって、それぞれの国の主導者たちが自国民の命と生活を守る能力がどんどん制限されるようになってきている

1970年には、中所得世帯がアメリカの総所得の62%を得ていた。それが2014年までに、43%にまで低下した。それら世帯の平均財産は2001年から2013年の間に28%減少した。犯罪件数と麻薬中毒者は急増し、1979年以降にアメリカ国内の工場における雇用の40%近くが消滅した

ル・ペンは、グローバル化は「奴隷が製造したものを失業者に売りつける」ようなものだと述べた

シェンゲン協定は、26のヨーロッパ諸国を含む地域で検問所のない国境を実現しているが、2015年の難民危機の間にフランスの「フィガロ」紙の行った調査によると、西ヨーロッパの住人の過半数が同協定の廃止を望んでいることがわかった。廃止賛成派は、ドイツでは53%、イタリアでは56%、フランスでは67%だった

新しいテクノロジーは、新しい雇用、そして新しい職種を作り出すだろう。ただし、職場の自動化が進み、機械学習が進化し、新しい形のAIが幅広く導入されていけば、将来の職業がさらに高いレベルの教育とトレーニングを要求することは確実だ

大量の資源を必要とするインフラ整備への大規模な財政支出に依存する成長モデルから中産階級の消費を軸とする成長モデルへと中国が移行したことは、新興国にとって石油、ガス、金属その他の鉱物に対する中国からの需要が少なくなることを意味する

雇用の創造を奨励するためには、政府は雇う労働者の数よりもむしろその売上高に基づいて企業に課税することができるだろう。あるいは、ルチル・シャルマが著書『シャルマの未来予測 これから成長する国 沈む国』で論じているように、政府が税率を決めるのは、それだけ稼いだかよりも、むしろ何をして稼いだかを基にすべきかもしれない

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赤ペンチェックでは省略しましたが、ビジネスパーソンとして読むべきは、第3章「12の断層線」の、各国分析でしょう。

どの国がどんなリスクを抱えているのか、投資家、ビジネスパーソンなら、きちんと知っておくべきだと思います。

起こりつつある「対立」の原理が、今後どう経済に影響を与えるか。

ぜひ読んでおきたい注目の論考です。

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『対立の世紀』イアン・ブレマー・著 奥村準・訳 日本経済新聞出版社
渡部清二・著 東洋経済新報社

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◆目次◆

序章
第1章 「勝ち組」と「負け組」
第2章 危険信号
第3章 12の断層線
第4章 分断の壁
第5章 ニュー・ディール
結論

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