2018年2月20日

『江副浩正』馬場マコト、土屋洋・著 vol.4962

【起業家精神を強烈に刺激する一冊。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822258688

本日ご紹介する一冊は、共ににリクルート出身の著者二人が、リクルート創業者であり、稀代の起業家・江副浩正氏の生涯を綴ったノンフィクション。

著者の一人、馬場マコト氏は、第六回潮ノンフィクション賞優秀作、第50回小説現代新人賞を受賞した書き手で、そのおかげか本書も読み応えある本格ビジネスノンフィクションに仕上がっています。

厳格な父に実の母を追い出され、後妻二人と暮らす、複雑な少年時代、東京大学の学生新聞を機に見つけたビジネスチャンス、そして現代の大リクルートに成長するまで…。

共に昭和から平成を駆け抜けた起業家たちとの交流や、江副氏が遺したビジネスの仕組み、人材、言葉が綴られており、じつに読み応えある内容です。

困難に真っ直ぐ向き合い、自らを変え続けるいち起業家の姿に、純粋に心を打たれました。

本書を読んでいると、昭和という時代がどんな時代だったのか、そこから生まれる機会をどう江副氏が掴みに行ったか、その全容がよくわかります。

さっそく、ポイントをチェックしてみましょう。

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「浩正、この人はお前のお母さんだ。お母さんと呼びなさい」大阪の空襲が激しくなり、女と幼子を伴い佐賀に現れた父が浩正に言う。そうだったか。子供心にもおかしいと思っていた。疎開のからくりはこれだったか。腹を大きくした新しい女、咲子を天王寺の家に入れるため、四二年、浩正の小学校入学を機に父は子を佐賀に追い出したのだ

旺文社の分厚い「大学別過去問題集」を丹念に読み込んだ。ただし過去問題のページではない。受験概要を読んだところに、浩正とほかの生徒の違いがあった。(中略)「受験科目、英語。但し他外国語選択可」あった。東大ならドイツ語の受験が可能だった。(中略)一番難易度が低い東大文二に照準を合わせる。ここならば自分の成績でも入学可能と読んだ

そしてひらめく。間もなくやってくる東大入試だ。受験生はだれもが合格者の名前がでる東大受験号を必ず買うはずだ。受かったものは自分の名前が載っているのがうれしくて、不合格者は悔しさを糧にするために。その不合格者にとって、次にすぐ必要な情報は予備校だ。そうだ。合格者名簿の記事と予備校広告の一体化こそ、セールスのポイントだ。予備校回りをすると、おもしろいように各校が広告出稿を予約した

「東大経済の人材は大蔵、日銀、銀行に行くものと、指をくわえて、なにも手を打ってこなかったのがあなた方です。兜町を丁稚が支える時代は終わりです。いま東大の優秀な人材を、銀行から奪取してこそ証券業全体が伸びるのです」

これまで誰も手がけなかったサービスを提供していく事業には、先生が必要。その先生は、新しいお客様や潜在的なお客様である。お客様に教えを乞いつつ、創意工夫を重ね、仕事の改善を継続的に続けていくことが重要

「そうだな、『ソニーは人を生かす』と書いてほしいな。僕はソニーに入ってきた人を必ず幸せにする」リクルートに入ろうとする学生に、自分はそう表明できるか。盛田の答えに感銘を受けながら江副は、そのような経営者をめざそうと誓った

オーストリアのサン・クリストフに、亀倉はスキーに出かけた。急斜面にコブがありそのままスキー板を突っ込んだら、亀倉自身が青空に放り出された。爽快だった。自分の着た白いスキーウエアに刺激されたか、かもめになって空中を急降下している気分になった。その時思った。リクルートはかもめだ。この会社は若者が学校を出て、社会に一歩足を踏み出す時に必要な会社だ。そしてこの会社も若い。社員も若い。社長も若い。すべてが真っ白な状態のかもめだ。さあ、事業という青空を舞い上がり、滑走し、飛翔するのだ。その領域はどこまでも広い。どこまでも自由だ

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「自ら機会を創り出し 機会によって自らを変えよ」。

この言葉は前々から知っていましたが、その深さを知ることができたのは、本書のおかげです。

どんな言葉も思想も、それが生まれた背景がわからなければ、理解することはできない。

本書は、リクルートに伝わる言葉や思想を、外部の人間が理解するのに、ピッタリの一冊です。

言葉通り、あらゆる困難を機会と捉え、自らを変え続けた江副氏の姿に、強烈に起業家精神を刺激されました。

500ページ近い本ですが、厚みを忘れる面白さです。ぜひ読んでみてください。

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『江副浩正』馬場マコト、土屋洋・著 日経BP社

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◆目次◆

序章 稀代の起業家
第一章 東京駅東北新幹線ホーム
第二章 浩正少年
第三章 東京大学新聞
第四章 「企業への招待」
第五章 素手でのし上った男
第六章 わが師ドラッカー
第七章 西新橋ビル
第八章 リクルートスカラシップ
第九章 安比高原
第十章 「住宅情報」
第十一章 店頭登録
第十二章 江副二号
第十三章 疑惑報道
第十四章 東京特捜部
第十五章 盟友・亀倉雄策
第十六章 リクルートイズム
第十七章 裁判闘争
第十八章 スペースデザイン
第十九章 ラ・ヴォーチェ
第二十章 終戦
第二十一章 遺産
あとがき
参考文献

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