2017年6月10日

『誰がアパレルを殺すのか』杉原淳一、染原睦美・著 vol.4707

【これは必読】
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本日の一冊は、発売するや否や話題となっている、アパレル業界の取材モノ。

華やかなイメージとは裏腹に、爆買いで覆い隠されていた綻びが出始め、売上げ規模減少、倒産続出、再編待ったなし、に追い込まれたアパレル業界の「犯人」は誰なのか。

「日経ビジネス」の記者で、アパレル業界に詳しい2人が、関係者への丁寧な取材をもとに、問題の真相に切り込んでいます。

大丸松坂屋百貨店社長・好本達也氏、高島屋社長・木本茂氏、ファーストリテイリング会長兼社長・柳井正氏など、関係者へのインタビューも載っており、じつに興味深い内容です。

小売店の要望に応えるうちに広がった安易な拡大路線、中国依存の弊害、販売管理のずさんさなど、この業界の問題点にズバリ切り込み、不振の原因を探っています。

一方で、業績好調なスタートトゥデイや、最終顧客から直接予約注文を取るナノ・ユニバース、オンラインSPAという新しい業態に挑むエバーレーン、エムエムラフルールなど、新たなプレイヤーの紹介もあり、投資家目線で見ても、興味深い内容でした。

ファッション業界の方は必読。その他の業界でも、おそらく勉強になる視点がたくさんあると思います。

さっそく、赤ペンチェック行きましょう。

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国内アパレルの市場規模は1991年に約15・3兆円あったが、2013年には約10・5兆円に縮小した。ここ数年は訪日外国人による“爆買い”特需が底上げしていると見られ、これを除けば既に10兆円割れしている可能性がある。一方、供給されるアパレルの数量は1991年時点で約20億点だったが、2014年には約39億点に増えている

ユニクロや欧米ファストファッションは、アパレル産業の川上から川下までの情報を正確に把握し、サプライチェーン全体を合理的に管理している。消費の変化に応じていち早く工場や売り場に指示を出すのが大きな強みだ。中国での大量生産や積極的な出店攻勢で注目を集めていたが、強さの本質はサプライチェーンのすべてを把握している点にある。だがそれに気付かなかった既存の大手アパレル企業は、製造拠点を中国に移すだけで、ユニクロや欧米ファストファッションと同じように人件費を安く抑えられ、大量生産によるスケールメリットによって製造コストを下げられると考えた

一言で言えば、OEMの弊害だ。OEM自体は昔から一般的だったが、アパレル企業が「売れ筋を、安く、速く」作ろうとするあまり、いつしか商品企画やコンセプトまで外部に丸投げするようになった。もちろん、商社やOEMメーカーが悪いわけではない。アパレル企業が手間を惜しみ、何も考えないまま発注することが問題なのだ

SCが増え、競争が激しくなるほど、近隣SCとの差別化が必要となり、アパレル企業に対して「ほかにはないブランドを出してほしい」という要望が強まる。これを受け、アパレル企業は次第に「わずかに商品構成や名前が違う」だけのブランドを乱発していった

三陽商会が2018年12月期の黒字化を目指して打ち出した施策を要約すると、「SCやファッションビルに販路を広げ、ネット通販にも注力。流行を敏感に反映するため、商品企画のサイクルを短くする」というもので、これまで指摘してきたアパレル業界の不振の原因と奇妙に符合する

「店舗はサロンのような役割。ネット通販の購買履歴を活用し、顧客の嗜好を理解した上で接客する方が、我々にとってもお客さんにとっても効率的。一等地に店を持つ必要はない」(エムエムラフルールのサラ・ラフルールCEO)

通常、アパレル企業は翌シーズンのサンプル品を、その前シーズンにお披露目する。展示会で注文を取るためだ。この展示会に出席できるのは業界関係者やメディア関係者に限られていた。だがナノ・ユニバースは、サンプル品が出来上がった段階でゾゾタウンに掲載。関係者ばかりではなく、一般の利用者からも商品の予約を受け付けるようにした

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あまりに構造が出版業界と似ていて、見ていて苦しい本です(苦笑)。

既存企業不振の分析も面白かったですが、何と言っても、新興企業台頭の部分が面白かったです。

「アジアのLVMH」を狙うトウキョウベース、桃太郎ジーンズを手掛けるジャパンブルーなど、新興企業のさまざまな取り組みが見られて、良い勉強になりました。

一読の価値アリです。ぜひ、読んでみてください。

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『誰がアパレルを殺すのか』杉原淳一、染原睦美・著 日経BP社

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◆目次◆

第1章 崩れ去る“内輪の論理”
第2章 捨て去れぬ栄光、迫る崩壊
第3章 消費者はもう騙されない
第4章 僕らは未来を諦めてはいない

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