2017年5月24日

『平均思考は捨てなさい』トッド・ローズ・著 小坂恵理・訳 vol.4690

【ダニエル・ピンク絶賛の注目書】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/415209690X

日本で過去、一番売れた本は『窓ぎわのトットちゃん』。4位は、『五体不満足』だそうです。
(『世界ー受けたい授業SP』より)

ちなみに2014年は、『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』が、総合ランキング4位でした。(日販調べ)

これらのランキングを見て、「日本っていじめや差別をテーマとした本が売れるんだな」と漠然と思っていたのですが、今日ある本を読んで、この国を支配している、恐ろしい「宗教」に気づきました。

その「宗教」とは、「平均」という名の宗教。

ベストセラーの一部は、この「平均」から漏れた人間が共感を抱く内容であり、それだけ日本の病理を表していると言っていいでしょう。

この「平均」がもたらした弊害と、それがなぜわれわれの社会にもたらされたのか、その秘密を明らかにしたのが、ダニエル・ピンクも絶賛の『平均思考は捨てなさい』(『THE END OF AVERAGE』)です。

本書では、平均こそが理想、あるいはそこからどれだけ乖離しているかで人間を評価するという現代の思想がどこから生まれたのか、その歴史をひも解いています。

天文学の平均法を人間に応用し、科学界の大御所になったアドルフ・ケトレー、その弟子であり、上流階級ならではの差別意識を持ったフランシス・ゴルトン、「科学的管理法」で知られ、世界初の経営コンサルタントとなったフレデリック・テイラー、そして平均思考を教育に持ち込み、教科書が何百万部ものベストセラーとなったエドワード・ソーンダイク…。

20世紀には尊敬されていたはずのこれらの人物を批判し、「平均」からの脱却を唱えた、じつに刺激的な論考。

大企業で行われているIQ偏重、一元的な人材採用システムについても企業の実名入りで異議を唱えており、これはもう読むしかありません。

ちなみに著者のトッド・ローズは、ハーバード教育大学院で心/脳/教育プログラムを主宰する心理学者で、「個性学」の推進者。

従来の教育システムでは「落ちこぼれ」とされ、若い頃から再低賃金労働を10種類も経験。貧困から身を起こし、ハーバード教育大学院の教員となった、まさにこのテーマを語るにふさわしい人物です。

本書では、なぜ「平均」が誤りなのか、「個性」の時代に移行した場合、どんな評価をすればいいのか、次世代の教育やマネジメントに役立つ考え方を提示しています。

ひさびさに「必読」と言える本の登場ですが、さっそく、いくつかポイントを見て行きましょう。

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実際の数字がまとめられると、ダニエルズさえも衝撃を受けた。結果はゼロ。四〇六三人のパイロットのなかで、一〇項目すべてが平均の範囲内におさまったケースはひとつもなかったのである(中略)平均的なパイロットなど、存在しないのである。つまり、平均的なパイロットにフィットするコックピットをデザインしたら、実際には誰にもふさわしくないコックピットが出来上がるのだ

科学者や学校や会社が「平均的な人間」というあやまった概念を歓迎するようになったいきさつについての秘話は一八一九年、ひとりの無名なベルギー人が大学を卒業した時点から始まる。のちに科学界の大御所になったこの人物は、アドルフ・ケトレーという

ゴルトンは人類を一四の異なった階層に分類した。底辺は「低能者」、中間は「凡人」、いちばん上は「有能者」から成る階層である

個性を重視しない平均主義を中心に据えれば、無駄は系統的に解消されるとテイラーは確信した。その結果、「これまでは人間が優先されたが、将来は組織が優先される」ことになったのだ

ランク付けに執着するソーンダイクは迷路のように複雑な教育制度を作り上げたが、今日そこには学生だけでなく、すべての関係者が閉じ込められている

個性学は、分析してから集計する方法を大前提としている。まず、個人のなかに一定のパターンを探し出す。そしてつぎに、何人もの人たちのパターンを集計し、そこから何らかの方法でグループの傾向を洞察していくのだ

バスケットボールのパフォーマンスに関して行なわれた数学的分析によれば、試合の結果には少なくとも五つの要素が確実に影響しているという。得点、リバウンド、スチール、アシスト、ブロックである。そしてこれら五つの要素のほとんどは、関連性が強くない。たとえばスチールの得意な選手は普通、ブロックが上手ではない

「ある日、閃いたんだ。仕事での成果はコンテクストに左右される。だから採用においては、候補者がどのようなコンテクストで最高の成果を発揮できるのか、考えることが肝心なんだ」(ルー・アドラー)

学習するペースにわずかな柔軟性を持たせるだけで、ほとんどの生徒が成績を大きく向上させることが、ブルームの実験からは明らかになった

◆個性に関する3つの原理
1.バラツキの原理 才能にはバラツキがある
2.コンテクストの原理 私たちは特定のコンテクストで首尾一貫している
3.迂回路の原理 最適な経路は個性によって決定される

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本書のなかに、科学的管理法が導入された当初の日本のエピソードが載っています。

これを読めば、われわれが今、システムの変更を迫られていることがよくわかるのではないでしょうか。

<個人よりも集団を重視する文化が定着しているアジアでは、科学的管理法は欧米よりもさらに徹底的に採用された。三菱や東芝といった企業は、標準化と労使分離の原則に従い、組織を全面的に再編したほどだ。一九六一年に日本を訪れたテイラーの息子は、鉛筆にせよ写真にせよ、父親の手の触れたものを何でもよいから譲ってほしいと東芝の経営陣から熱心に乞われた>

いずれにせよ、実業界でも教育界でも物議を醸すこと間違いなしの過激な内容。

ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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『平均思考は捨てなさい』トッド・ローズ・著 小坂恵理・訳 早川書房

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◆目次◆

はじめに みんなと同じになるための競争
第1部 平均の時代
第1章 平均の発明
第2章 私たちの世界はいかにして標準化されたか
第3章 平均を王座から引きずりおろす
第2部 個性の原理
第4章 才能にはバラツキがある
第5章 特性は神話である
第6章 私たちは誰もが、行く人の少ない道を歩んでいる
第3部 個人の時代
第7章 企業が個性を重視すると
第8章 高等教育に平均はいらない
第9章 「機会均等」の解釈を見直す

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