2017年1月13日

『ツーリズム成長論』櫻川昌哉、慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所・編 vol.4559

【観光ビジネスで成功するには?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4766420209

「21世紀最大の産業」と言われ、事実わが国でも急成長中の観光産業。

2016年は、訪日外国人数が2400万人を突破し、2403万9000人。

2015年の1973万7409人を21.8%上回り、4年連続で過去最高を更新したということで、いま最も景気の良い産業のひとつではないでしょうか。

観光の面白い点は、それが運輸、宿泊、外食、物販など、ほぼすべての産業に影響を与える点。

実質人口増ということなので、当たり前といえば当たり前ですが、こんなに国の経済にインパクトを与えるビジネスも珍しいと思います。

本日ご紹介する『ツーリズム成長論』は、その観光産業の動向と展望を、第一線の研究者、業界関係者が論じた一冊。

慶應義塾大学で開催された公開講座を書籍化したものということで、発行が2013年3月。

多少データのアップデートは必要ですが、観光ビジネスに求められる広い視点が得られる、貴重な一冊です。

観光のどこにチャンスがあるのか、問題点は何なのか。

民間企業はもちろんですが、政策担当者、地上自治体の関係者にもぜひ読んでいただきたい、優れた内容です。

さっそく、気になったポイントをチェックしてみましょう。

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【社団法人日本観光振興協会副会長 舩山龍二氏】
個人旅行化の傾向は著しく、これは世界的な流れでもありますので、業界の対応は待ったなしです

「泊食分離」という考え方があります。日本の旅館は、宿泊と食事をセットにしていますが、ホテルのように両者を分けることで「食べに行く」楽しみを付加するのです

【大阪大学大学院経済学研究科教授 福重元嗣氏】
公共財は、多くの人に恩恵を与えてくれるものですが、一方で難しい問題があります。というのは、公共財を維持するには費用がかかりますが、誰でも好き勝手に消費できるために、誰もその費用を負担しようとせず、結果として公共財が提供されなくなってしまう

もし京都のまちに高層ビルが建ち並んだら、大文字焼きをみられる場所も限られ、また山のふもとに広がる景観も損なわれてしまうでしょう。そこで、京都の人々は相談して市の条例をつくり、一定の高さ以上にビルを建ててはいけないことにしました。京都の景観は、このようにルールをつくることで守られているのです

観光地Aは毎年一〇〇万人の訪問者があり、平均一万円のお金を当地で支払います。一方、観光地Bは毎年一〇万人が訪れ、当地で平均一〇万円の消費をします。収益率をともに一%と仮定すると、A、B、それぞれの観光地としての価値はいくらになるでしょう。答えはもちろん、A、Bともに一〇〇億円です

地域振興のためには「滞在」部分の付加価値を高めることが大変重要

【一般社団法人ジャパン・オンパク代表理事 鶴田浩一郎氏】
旅行市場の主役が企業・地域単位の団体客から個人・家族客へと移り、かつ女性の比重が高まったことによって、旅行先・旅行プランの意思決定者も女性・子どもに替わります。女性自身のために、あるいは子どものために、どこへ行って何をしようかと考えるわけです。これはマーケティングを考えるうえで決定的に重要な変化です

別府八湯温泉道
これはマニア向けの温泉道を極めようというもので、別府はお金を払って入れる温泉が四〇〇ほどありますから、八八湯に入ると温泉の名人になれるという企画です。この一〇年で三〇〇〇名ほどの名人が誕生しています。およそ二割は地元の人、八割が県外の温泉マニア(中略)NPOでマニア向けの温泉本を出版したところ、一般の方も買ってくださり、毎年五万部というロングセラーを続けています

【株式会社ジェイティービー旅行事業本部営業企画部長 野元功一氏】
これまでJTBは「発主義」で、自分のところにいるお客様にどこかへ旅行してもらうことを生業としてきました。しかし、これからは「着主義」、つまりその土地の素材、魅力を掘り起こし活性化させ、人流を導いてくることで、着地型ビジネスの構築を図っています

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執筆者の一人で、跡見学園女子大学マネジメント学部准教授の村上雅巳氏がまとめてくれていましたが、現在、わが国では「訪日外国人三〇〇〇万人プログラム」が進行中です。

第二期の昨年・二〇一六年は、目標二〇〇〇万人をクリア(二四〇〇万人達成)、第三期となる二〇一九年までに二五〇〇万人、そして将来的に三〇〇〇万人達成という見通しです。

おそらく、今後カギとなってくるのは、観光ビジネスのリピート化ですが、そのための政策上のポイントと、ビジネスのヒントが、本書には詰まっています。

ぜひ読んでみてください。

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『ツーリズム成長論』
櫻川昌哉、慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所・編 慶應義塾大学出版界

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◆目次◆

まえがき
序 章 経済成長とツーリズム産業
第1部 ツーリズムの経済学「超」入門
第1章 経済学の考え方を知る
第2章 ツーリズム産業の経済効果
第3章 ツーリズムの産業政策
第2部 観光資源の開発と育成
第4章 温泉ウェルネス産業の育成──別府:保養滞在型温泉地への変身
第5章 産業遺産の観光資源化
第6章 体験型観光とまちおこし──越後田舎体験事業の取組み
第3部 交通産業の変革
第7章 国際ハブ空港への課題と戦略──成田空港の挑戦
第8章 航空産業の生き残り戦略──ANAの事例から
第9章 鉄道産業のICT戦略──JR東日本:Suicaは何を変えたのか?
第4部 ツーリズム産業のファシリテイターたち
第10章 日本のホスピタリティ文化の海外展開──加賀屋:アジア進出への視座
第11章 旅行業のサービス多様化──JTBの市場分析とマーケティング戦略
第12章 ツーリズム産業のリスクマネジメント
おわりに

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