【ムムム】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4568505070
最近思うのは、われわれビジネスパーソンには、ビジュアルの勉強が足りないんじゃないか、ということ。
動画、写真、イラスト、デザインもそうですし、ファッションもそう。
消費者が感性で買う時代に、ビジュアルを学ばないのは問題だとすら思っています。
そこで手に取ったのが、人気イラストレーターにして装丁家、アートディレクター、寄藤文平氏による『絵と言葉の一研究』。
冒頭からぐいぐい引き込まれて、あっという間に読んでしまいました。
寄藤文平氏と言えば、30万部を超えた『海馬』で装丁家デビューして以来、『ウンココロ』、『年収200万円からの貯金生活宣言』など、ヒットを連発してきた人物。
フリーペーパー「R25」の表紙や、「大人たばこ養成講座」などでご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
本書は、そんな寄藤文平氏の頭のなかを、絵と言葉を使って解説した、じつに学びの多い一冊。
「絵を使ってインフォメーションを作る」という画期的な手法を、氏がどう実践してきたか、作品を通じて学べる、興味深い内容です。
なかでも勉強になったのは、「夏休みが明けると彼女は別人だった。」という言葉に違うイラストをあてていくとどうなるか、『千利休 無言の前衛』にどんな装丁をあてるべきか、考察した部分。
考え方ひとつで次々と変わっていくビジュアルの印象の違いに、「装丁家はここまで考えているのか」と深い感銘を受けました。
以前、ある編集者が「寄藤さんの戦略思考はすごい」と絶賛していましたが、まさにそれが文章から伝わってきます。
イラスト入りでご紹介できないのが本当に残念ですが、さっそく気になった言葉をピックアップしていきましょう。
———————————————–
僕は「情報」をふたつの形に分けている。ひとつは「データ」。ひとつは「インフォメーション」(中略)意味を持たされたデータがインフォメーションである
僕はオチンチンをあきらめて、CO2をたくさん排出し、なおかつ棒状のものはなんだろうかと考えた。すぐに思いつくのは工場の煙突だ。でも「CO2の排出=工場の煙突」では、あまりにもストレートすぎる。意味が近すぎるのもまた、面白くない。その後、いろいろ考えた結果、車のマフラーで絵を作ることにした(中略)ヤンキー車は、普通の車より排気ガスをたくさん出しそうな印象があるし、マフラーが上に伸びるから棒グラフとの相性もいい。ヤンキー車を並べて、そのマフラーを伸ばしたラフを描きながらふと思った。グラフのはじまりは普通車にして、CO2の排出量が増えるに従って、だんだんヤンキー車に改造されていくというのはどうだろうか
絵を使ってインフォメーションを作る。当時は、それが新しかった。僕の仕事はイラストとして世の中に出回っていたけど、一般的に、多くのイラストは「絵画」の延長として考えられていた。イラストを「情報」として作るイラストレーターは、ものすごく少なかった
2000年前後から、不完全なインフォメーションを、受け取る人が補うといったコミュニケーションが廃れて、完成されたインフォメーションが流通するようになっていったように思う。大きな目で見れば、僕の作ったイラストが評価を受けたのも、そういう文化の一部だったような気がする
多くの人が、知らず知らずのうちに、「絵と言葉は対立している」と考えているような気がする
ラジオの中の先生は「あるものとあるものが結びついたら、それはまったく別のものなんですよ」と答えた(中略)「結びついたら、それはまったく別のもの」そのひと言だけが、記憶に残った
誰かと話すとき、相手の音声と表情を切り離して考える人はいない。「大丈夫です」のひと言でも、その表情が暗ければなにかあったのかと思い、明るすぎると逆に心配になったりする。表情という絵と、音声という言葉は、生活の中では最初から分ちがたく結びついている。おそらく、僕がやっていることは、そのようなふつうのコミュニケーションを、紙の上に再現しようとする試みなのだろう
2掛ける0.1は、横に並んだ2が縦に0.1積まれているのだから、0.1+0.1で、0.2になると想像できる。2×3と3×2の答えが同じになる理由もスッキリつながる。数学の解釈として正しいかどうかは知らないけれど、あのとき、僕が求めていた答えはそういうことだった
———————————————–
こうしてみると、寄藤文平氏のイラストというのは、イノベーションであったということがよくわかります。
戦略論の権威、リチャード・P・ルメルト氏の『良い戦略、悪い戦略』に、こんな記述がありました。
「未踏の高地を手に入れる一つの方法は、自前のイノベーションによって作り出してしまうことである」
※参考:『良い戦略、悪い戦略』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532318092
画期的に売れるものは、既存の商品の延長上で作られる「良い商品」ではなく、イノベーションによって作られたものであり、オリジナリティというのは、イノベーションによって創られるということがよくわかります。
イラストの本ながら、ビジネスの本質についてもいろいろと考えさせられました。
これはおすすめの一冊です。
———————————————–
『絵と言葉の一研究』寄藤文平・著 美術出版社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4568505070
————————————————-
◆目次◆
第1章 データとインフォメーション
第2章 お金とタッチ
第3章 絵と言葉
第4章 本と装丁
第5章 デザインとブックレビュー
第6章 わかるとわかりやすさ
第7章 自分チャンネルとあとがき
この書評に関連度が高い書評
この書籍に関するTwitterでのコメント
お知らせはまだありません。