2015年9月10日

『景気を仕掛けた男』出町譲・著 vol.4069

【マルイ創業者・青井忠治の物語】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344028074

正力松太郎、瀬島龍三、上野千鶴子、利根川進、坂東眞理子、角川春樹、藤子・F・不二雄、藤子不二雄A、青井忠治、浅野総一郎、大谷米太郎、黒田善太郎、安田善次郎、吉田忠雄…。

みなさんは、これらの人物の共通点がおわかりでしょうか?

いずれも有名人ですが、じつは彼らの共通点は、「富山県出身」であること。

富山県といえば、日本を代表するお金持ち県ですが、それはその徹底したお金教育と県民の勤勉さが原因でしょう。

そんな富山県から出た経営者で、マルイの創業者となったのが、青井忠治(あおいちゅうじ)。

本日ご紹介する一冊は、そんな青井忠治の波瀾万丈の一代記です。

広大な屋敷に生まれ、「お坊ちゃん」と呼ばれて育った忠治ですが、父の事業の失敗が原因で、わずか1歳で母と離れ離れに。2歳の時、はしかで右目の視力を失い、11歳の時には父が逝去。母は忠治が10歳の時に再婚しましたが、嫁いでわずか3カ月後に亡くなっています。

本書には、天涯孤独となった忠治が、いかにして東京で身を立て、成功するに至ったか、その軌跡が書かれています。

自社を不法占拠した中国人との闘い、かわいがってくれた丸二商会店主村上との別れ、テレビを見たい客が殺到して床が抜けた事故、労働組合との交渉……。

度重なる危機を忠治がどう乗り越えてきたのか、ベストセラー『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』で知られる作家の出町譲さんが、今回も面白いノンフィクション・ノベルに仕上げています。

いくつか、エッセンスを見て行きましょう。

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忠治は尾津が子供にせんべい袋を渡したことに感動していた。どんな子供でも、お金がなくお腹が減れば、盗みを働くかもしれない。せんべいを盗もうとしていた男の子も、尾津さんに救われた。ぎりぎりの段階で盗みをしなかったことが、男の子の将来にとってどれほどよい影響を与えることになるか。俺も将来、お金をためて、貧しい子供たちに寄付をしたい

父の事業の破綻は、忠治の運命をも狂わせた。母のうたの実家、加藤家は、娘をこんな男のもとには預けられないと実家に戻した。忠治がわずか一歳の時に、母は出て行ったのだ

ある日いつものように、加藤家に遊びに行った。声をかけようとしたが、うたは手を左右に振って「そばに来るな」と意思表示した。うたは黒地の友禅の打掛を纏っていた。見慣れた母とは全くの別人で、声をかけるのもためらわれた。その日はうたの婚礼の日だった。忠治はちょうど十歳だった。これが母を見た最後だった

「小杉にいても、俺は邪魔者だ。天涯孤独なんだから、いっそのこと、東京で頑張ろう」

震災という災いを転じて福となす。この村上の姿勢を忠治は勉強した。終戦直後いち早く、東京で事業を再開したのは、村上の関東大震災の直後の手法を学んだものだった

忠治は翌朝、先輩に「この店で一番偉い人になるにはどうしたら良いでしょうか」と尋ねた。その先輩は「そうだな、第一に商売がうまくなることが大事だ。それに字も上手で、そろばんもできなければならない」と答えた。それから忠治は心を入れ替えた。早く商売を身につけるため、人を捕まえてはそろばん、習字、簿記など商売の基本を習った

「売りつけるというんじゃいけない。買っていただくのだ。それもだますんじゃない。良い品物をよくご覧いただいて、納得した上で買っていただくんだ。だから商品一つ一つについて、よく勉強してくれ。そしてよく説明するんだ。お客様に、いい買い物したと思っていただかなければならない」

緑屋は最終的には、堤清二率いる西武流通グループの傘下に入った。緑屋という名称は消滅したのだ。経営の多角化に一切興味を示さなかった忠治が、「戦争」に勝利した

「一つは貸しすぎを避けることだ。お客様を不幸にするからだ。そしてもう一つは、あくまで小口に徹することだ。大口は一番危険であり、小口なら回収率は安定する。三番目は、貸せない客に対しては、勇気を持って断ることが重要だ」

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「世の中が不況だからといって、自分の店まで不景気にすることはない。不況でお客様が来ない、売れないということなら、どうすればよいかを考えるまでのこと、一生懸命に真剣に考えれば必ず打開策がでてくるものです」

「景気は自らつくるもの」という忠治のメッセージは、現在に生きるわれわれにも、希望と勇気を与えてくれます。

ビジネスパーソンはもちろんのこと、ひとかどの人物になろうとする若者にも、ぜひおすすめしたい一冊です。

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『景気を仕掛けた男』出町譲・著 幻冬舎
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344028074

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◆目次◆

プロローグ
第一章 命がけの「決闘」
第二章 家族主義の原風景
第三章 終戦直後の快進撃
第四章 家族主義の崩壊と世代交代
エピローグ

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