2014年4月24日

『年収は「住むところ」で決まる』 エンリコ・モレッティ・著 vol.3565

【年収は住所で決まる? 注目の論考】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4833420821

『年収は「住むところ」で決まる』。

何と衝撃的なタイトルでしょうか。

一見、チープな自己啓発書かキャリア関連書を思わせますが、じつはこの本、「都市経済学」を専門とする著者の、かなり本格的な論考。

さまざまなリサーチやデータを元に、われわれの年収が住所によって決まることを明らかにした、じつに刺激的な一冊です。

かつて、トーマス・フリードマンは、グローバル化を論じたベストセラー『フラット化する世界』で、ある人が地理的にどこにいるかは大きな意味を持たなくなった、と主張しました。

しかしながら、その後の追跡調査によると、じつはイノベーション企業の大半はコストの高い都市部に集中し、しかも、その状態がずっと続くことがわかっているのです。

<世界の電話通話、ウェブサイトへのアクセス、投資資金の流れの九五%は、比較的近接した地域内で起きている。むしろ、今日のハイテク産業は、二〇年前に比べて一部の土地への集積がさらに加速している>

これはなぜかというと、イノベーションを起こすには、優れた企業や人材が集まることが重要だから。

面白いことに、いったんその土地に企業や人材が集中すると、イノベーション企業ばかりか、周囲のサービス業まで雇用創出の恩恵を受けるのだそうです。

テクノロジー関連企業の話をすると、よく出てくるのが、雇用創出が少ないことに関する指摘ですが、どうやらこれは誤解のようです。

以下の引用部分を読んでみてください。

<フランスのインターネット関連産業についての研究によれば、ワールドワイド・ウェブが登場して以来、インターネットが生み出した雇用は一二〇万に達している(ソフトウェアエンジニアなど、インターネットに直接関係する仕事と、オンラインショッピングの配送など、インターネット産業以外の仕事の両方を含む)。一方、消滅させた雇用は五〇万。つまり、インターネットのおかげでざっと七〇万の雇用が増えたことになる>

ただ問題は、<雇用の消滅が幅広い地域で起きるのに対し、雇用の創出がいくつかの地域に集中>してしまうこと。

これは、選挙では大きな問題であり、おそらく政治的にもなかなか一部の都市を優遇できない理由かもしれません。

イノベーションがますます大事になっていることや、ベンチャーキャピタルが近くの企業を好むこと、パワーカップルが都市部を好むことなどを考えれば、ますます都市部の有力都市が住むにも働くにも有利、ということになってきそうです。

企業の本拠地をどこに定めるべきか、これからどこに住むべきか、悩んでいるホワイトワーカーに、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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研究によると、ある都市に科学者が一人やって来ると、経済学で言うところの「乗数効果」の引き金が引かれて、その都市のサービス業の雇用が増え、賃金の水準も高まることがわかっている

ドットコム・バブルの最盛期だった二〇〇〇年、識者は口をそろえて「ニューエコノミーの登場により、企業も個人も地理的制約から解き放たれる」と主張した。しかしすでに述べたように、実際には、それとは逆のことが起きている。イノベーション関連の企業が成功できるかどうかは、どのようなエコシステムで活動するかに大きく左右されるのだ

都市部での物づくり復活の動きは、文化的現象としては興味深い。(中略)しかしこの新しい現象は、雇用問題の解決策にはなりえない。まず、影響が限られている。生み出される雇用があまりに少なく、労働市場全体に影響らしい影響を及ぼせない。(中略)地元産品を魅力あるものにしている重要な要素は「特別なもの」というイメージだ。消費者にそう思われ続けたければ、ビジネスの規模をある程度以上に拡大させることは難しい

フランスのインターネット関連産業についての研究によれば、ワールドワイド・ウェブが登場して以来、インターネットが生み出した雇用は一二〇万に達している(ソフトウェアエンジニアなど、インターネットに直接関係する仕事と、オンラインショッピングの配送など、インターネット産業以外の仕事の両方を含む)。一方、消滅させた雇用は五〇万。つまり、インターネットのおかげでざっと七〇万の雇用が増えたことになる(中略)問題は、雇用の消滅が幅広い地域で起きるのに対し、雇用の創出がいくつかの地域に集中することだ

上位都市の高卒者は下位都市の大卒者よりも年収が高い

大卒者の割合が多い都市ほど、高卒者の給料が高い

コスタとカーンの研究によれば、教育レベルの高い専門職のなかに大都市に住む人が増えており、その半分以上は、居住地問題を解決するために都会暮らしを選んだパワーカップルだ

注目すべきだと思うのは、ベンチャーキャピタル業界のローカル指向の強さだ。この業界ではかつて、「二〇分ルール」ということがよく言われていた。オフィスから車で二〇分以内に所在していない企業は、投資対象として考慮されない、というわけだ

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『年収は「住むところ」で決まる』エンリコ・モレッティ・著 プレジデント社
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◆目次◆

日本語版への序章 浮かぶ都市、沈む都市
第1章 なぜ「ものづくり」だけでは駄目なのか
第2章 イノベーション産業の「乗数効果」
第3章 給料は学歴より住所で決まる
第4章 「引き寄せ」のパワー
第5章 移住と生活コスト
第6章 「貧困の罠」と地域再生の条件
第7章 新たなる「人的資本の世紀」

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