2013年9月20日

『中内功のかばん持ち』恩地祥光・著 vol.3349‏

【秘書が見た、ダイエー創業者の素顔】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4833420597

企業はゴーイングコンサーンであり、経営では継続が大事。

よく言われることではありますが、生きているだけで立派と言われないのは、企業も人間も同じでしょう。

存続している者を称えるのはもちろん大事ですが、死してなお、後世に財産を残した人間がいることを忘れてはいけないと思います。

本日ご紹介する一冊は、ダイエーの創業者として、また流通革命の旗手として活躍した昭和のカリスマ、中内功氏のエピソードを、氏の「かばん持ち」だった著者が紹介した一冊。(「功」の字は、本来「エ」と「刀」の組み合わせです)

気宇壮大、朝令暮改、敵を欺くには味方も欺く。

カリスマ経営者がやっかいなのはいつの時代でも同じことですが、中内さんは、スケール感が違ったようで、それに振り回され続けたのが、本書の著者、恩地氏。

早朝五時の電車に乗って新聞を入手し、入れ歯が壊れれば、1時間後までに修理して届ける。リクルートの買収話が漏れた時には、必死の思いで記者会見場を手配したが、それはすべて中内氏本人がリークしていた…。

裏エピソードがてんこもりで、じつに楽しめる内容です。

ここまで知っているのは、さすが秘書だった著者ならではですが、痛快だったのは、氏が頑固にこだわった、銀座の旧カネボウビル、そしてあっさり決めたリクルートの購入話。

銀座の旧カネボウビルは、110億円とあまりに高額で、秘書が反対したにもかかわらず、「買え」の一点張り。結局、このビルは175億円でシャネルが買い取り、175億円で落札。

また、リクルートの買収では、まったく交渉なしでリクルートの言い値の460億円で江副氏の持分34%を購入。

これは1000億円以上の利益を生み出したそうです。

全盛期の中内氏の即断即決のエピソードと、決断に翳りが見え始めた頃の失策。

著者はこれを懐かしげに、また時に悲しげに比較しながら、中内ダイエーの栄光と失敗の理由を語っています。

数多くの優秀な人材を輩出し、日本の流通業界を盛り上げた昭和のカリスマ、その実像と教訓を知る上で、本書は貴重な一冊です。

このページ数で1800円はちょっと高いですが、その価値は十分ある内容だと思います。

ぜひチェックしてみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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「社長や部長といった『長』と呼ばれる人間になっても、そんなもんはどこにでもおる。石を投げたら大体『長』の名刺を持っとる奴に当たるもんや。むしろ『者』の付く人間にならなあかん。芸者、役者、経営者、学者、みんな誰でもなれるもんやない。芸者でも役者でも、お座敷や舞台にお呼びがかからんようになったら引退や。経営者も一緒やで。体張ってやってるから魅力的なんや」(中内氏)

中内さんはいろんな言葉を残されましたけれども、その中で一番有名なのが「よい品をどんどん安く」という言葉です(中略)それ以上に、私には心に残っている言葉がありまして、ハリー・カニンガムというKマートの創業者の言葉を引用されたものですが、「あなたはお客さまに今日何をしましたか」という言葉です(柳井正氏)

中内さんは、物事に真正面から向かって行って懸命な努力を払ったにもかかわらず失敗すること──つまり額に受ける向う傷には本当に寛容なのだ。でも、努力を怠って逃げの一手で問題を回避し、最終的にお客様の生活を豊かにする点で貢献せず、同時に競合他社に後れを取ること──つまり背中をバッサリ斬
られるような傷はとことん忌み嫌う

中内さんに「ビジネスマンとして最も大切な特質は何ですか?」と聞いたことがある。その答えは「オネスト」というものだった

◆「よい品をどんどん安く、より豊かな社会を」
「この“どんどん”というフレーズがミソなんや。“良い品をより安く”は誰でも考えつくけど、“どんどん安く”という表現には意思や継続性やボリューム感が感じられるやろ。これなんや」

「そやなあ、確かに隠してもしょうがありませんなあ。河合センセのいう通りや。明日ダイエーはT専務を告訴し、自分は経団連に辞表を出しますわ。君らはセンセと一緒にT専務を連れて福岡地検に告訴の手続きに行ってくれ。まあ、もともと何もないところから始めた会社や。沢庵の尻尾齧ってでも生きていけるわ。また一から出直しや」(中内氏)

その後ワーナー事業は大失敗に終わったが、ダイエーの衰退とともにその物件(銀座の旧カネボウビル)は売りに出された。またカネボウのときと同じく入札が行われ、シャネルが何と一七五億円で落札した。売却益は六〇億円。「一等地、代替のきかない物件は絶対的な価値がある」という中内さんの目利きは本物だった

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『中内功のかばん持ち』恩地祥光・著 プレジデント社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4833420597

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◆目次◆

1.“かばん持ち”前夜──ダイエー一兆円達成
2.秘書室着任、そしてご対面
3.ドタバタ“かばん持ち”のスタート
4.入れ歯と赤字決算
5.店巡回──カメラ、糖度計、ベータムービー…
6.CEO、フェスティバルホールに出演す!
7.学歴と“オネスト”──除籍から中退、卒業へ?
8.理念の人──稀代のコピーライターとしてのCEO
9.新しいモノ好き──時々言い間違い
10.オーナーシップ、そして事業承継
11.天邪鬼は福岡ドームにて極まれり
12.リスクマネジメント──「沢庵の尻尾齧ってでも……」
13.ハワイ大好き
14.リクルート“事件”──頭を掻きむしる江副さん
15.頼まれたら弱い!──ヤオハンとのM&A
16.中内さん初の黒字事業売却
17.汚れた顔の天使──ワーナー事業
18.戦争は絶対あかん
19.中内学校
20.生涯のライバル──堤清二さんとの共通点
21.最期

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