2013年4月26日

『インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?』佐々木融・著 Vol.3202

【インフレで得をする庶民は少ない?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478024340

本日の一冊は、ベストセラー『弱い日本の強い円』で知られる、元日本銀行、現JPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長・マネジングディレクターの佐々木融さんによる書下ろし。

※参考:『弱い日本の強い円』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532261384

現在話題となっている「アベノミクス」が目指すインフレで、われわれの生活が本当に良くなるのか、徹底議論した一冊です。

いきなり面白かったのは、「日銀がもっとお札を刷れば(発行すれば)いいんだ!」論を真っ向否定していること。

なぜ日銀がお札を発行しても、お金が出回らないのか、その理由を明快に説明してくれています。

<金本位制の時代は金を裏づけにお札が発行されていたが、今は預金を裏づけにお札が発行されている。単純にいえば、預金を持っていない人はお札を引き出せないのである。つまり、日本銀行も民間銀行も、自行に預金を預けていない人・会社・銀行に対して、お札は渡せない。「日銀がもっとお札を刷れば(発行すれば)いいんだ!」と言う人は、このポイントを誤解している>

また、インフレが起これば、明らかに年金生活者が不利になることを具体的に説明しており、ここは読みどころです。

<マクロ経済スライドという制度が導入されている。今後物価が上昇しても、年金額は物価上昇分ほどには上がらないシステムである。その差は0.9%。たとえば物価が2%上昇したとすると、年金額は2%から0.9%を差し引いた1.1%しか上がらない>

結論としては、まえがきにあるように、<真の「需要の回復」なくして国民は幸せになれない>ということなのですが、そこに関しても、著者はいくつかヒントを示しています。

<日本の貿易収支の赤字増大は、原子力発電の停止に伴うエネルギー輸入の増加と思いがちだ。しかし実は、対中東諸国の貿易赤字はさほど大きく増加しておらず、2012年の赤字増加の主因は、対中国の貿易赤字が2011年の1.7兆円から2012年には3.5兆円に倍増したことにある。このほか、対欧州の貿易収支が比較的大きな黒字から赤字に転換した(中略)対欧州の貿易収支悪化の主因は自動車である。対欧州向けの自動車輸出が大きく落ち込んだ一方で、欧州からの自動車輸入は大きく増加している>

アベノミクスで本物の「需要」は生まれるのか? これからの日本経済を考える上で、参考となる一冊です。

ぜひチェックしてみてください。

—————————————————
▼ 本日の赤ペンチェック ▼
—————————————————

実体経済が、市場の動きを決めるのである。「円高だからデフレになる」という主張は、筆者には「株価が下落するから企業業績が悪化する」というのと同じぐらい本末転倒に聞こえる

今回、安倍首相がタイミングよく、借金を膨らませずに、一時的に円安方向に為替相場を動かした。しかし、このまま日本のインフレ率が米国のインフレ率を下回る状態が続くようであれば、いつかは再び円高方向に逆戻りする

2005~2007年半ばの円安局面では、輸出物価以上輸入物価が急騰し、交易条件は急速に悪化している

短期国債を除く国債の保有者のうち、外国人投資家は8.7%しかいない。残りの91.3%は日本人投資家で、銀行等が43.6%、生損保等が19.1%、日本銀行が10.2%を保有している

日本の貿易収支の赤字増大は、原子力発電の停止に伴うエネルギー輸入の増加と思いがちだ。しかし実は、対中東諸国の貿易赤字はさほど大きく増加しておらず、2012年の赤字増加の主因は、対中国の貿易赤字が2011年の1.7兆円から2012年には3.5兆円に倍増したことにある。このほか、対欧州の貿易収支が比較的大きな黒字から赤字に転換した

対欧州の貿易収支悪化の主因は自動車である。対欧州向けの自動車輸出が大きく落ち込んだ一方で、欧州からの自動車輸入は大きく増加している

もし、世界中のすべての企業や投資家が、自分が保有する資産の1%を対外投資に振り向けたら、どの通貨が売られるのだろうか。答えは簡単だ。それはお金を持っている投資家や企業が多く存在する国の通貨である

今後数年間は、世界的にリスクテイク志向が強い状態、つまりリスクオンの状態が続き、円相場は緩やかに円安方向に推移する可能性が高い

世の中には「バブル待望論」者も多い。株価や地価が上昇すればビジネスが増えるからである。それに、自分は今度こそバブルにうまく乗って崩壊前に逃げ切れる、と考えている人も多いのかもしれない。しかし、バブルの発生と崩壊のプロセスは経済の成長を20年も停滞させていることを忘れてはならない。こんなことを繰り返していると、せっかく私たちの先達がつくり上げた強い日本を、マネーゲームで弱い国にしてしまい、次の世代に引き継ぐ結果となってしまう

日本が今本当に必要としているのは、インフレではない。強い需要である

————————————————

『インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?』佐々木融・著 ダイヤモンド社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478024340

————————————————-

◆目次◆

疑問1 日銀がお札を刷れば、財布の中の1万円札は増える?
疑問2 問題はデフレで、その克服のためにインフレを目標にする?
疑問3 日銀が国債を引き受けるとハイパーインフレになる?
疑問4 円安誘導のインフレで日本経済は復活できる?
疑問5 インフレターゲットを採用すればインフレになる?
疑問6 日本国債は日本人が保有しているから売られない?
特別付録 現役ストラテジストが顧客にしか教えない為替の構造要因と見通し

この書評に関連度が高い書評

この書籍に関するTwitterでのコメント

同じカテゴリーで売れている書籍(Amazon.co.jp)

NEWS

RSS

お知らせはまだありません。

過去のアーカイブ

カレンダー