2012年12月7日

『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』ダン・アリエリー・著 vol.3062

【人間はどんなときに不正を働くのか?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152093412

本日の一冊は、ここ数年の行動経済学ブームの火付け役であり、世界的ベストセラー『予想どおりに不合理』の著書、ダン・アリエリーによる新作。

※参考:『予想どおりに不合理』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152091665

今回は、人間なら誰もがやってしまいがちな「不正」に着目し、人間はどんな時に不正を犯すのか、どうすればそれを抑制できるのか、さまざまな実験結果をもとに検証しています。

不正行為に関しては、シカゴ大学の経済学者でノーベル賞受賞者のゲーリー・ベッカーが提唱したSMORC(Simple Modelof Rational Crime)、つまり人間は費用便益分析をもとに正直でいるかどうかの決定を下すというモデルが支持されてきましたが、本書では、これが現実に合っているかどうかを検証しています。

興味深いのは、ベッカーらが打ち立てた不正の3つの基本要素(1.犯罪から得られる便益、2.つかまる確率、3.つかまった場合に予想される処罰)が、実際にはあまり不正に影響を与えない、場合によっては逆に不正を抑止する方向に働く、ということがわかったことです(得られる便益が大きすぎると、人は尻込みする)。

では、何がごまかしを生むのか。

本書によると、人は基本的にずるをするものであり、<「そこそこ正直な人間」という自己イメージを保てる水準まで、ごまかしをする>のだそうです。

つまり、人がごまかしをするのは、ごまかしてもつじつまが合うからであり、つじつまが合わないようだと、不正をしないのです。

本書では、わざと報酬をごまかす機会を与えられた学生が、どんな行動を取るかを研究したり、タクシーの運転手がごまかしを行うかどうかを実験したり、さまざまな実験から、興味深い結論を導き出しています。

人は現金を盗むのには気が引けるが、物やトークンになると、より不正を働きやすくなるという事実、<倫理基準を思い出させられるだけで、より高潔な行動をとるようになる>という事実、交通費の請求書の上部に署名させると不正請求が減るという事実など、マネジメントに役立つ研究結果が、いくつも紹介されています。

前作もそうでしたが、学者が書いた本とは思えないほどユーモアがあり、知的刺激にあふれた読み物です。

もしあなたがダン・アリエリーの名前を知らず、今日初めて知ったなら、今すぐ本書を読んでいただきたい。

人間観が一変すること、間違いなしの一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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大金がなくなると、わたしたちはたいてい一人の冷血な犯人のしわざだと考える。だが美術愛好家の物語が教えてくれるように、不正行為が起きるのは、一人の人が費用便益分析をして大金を盗むからとは限らない。むしろ多くの人が、現金や商品をちょっとだけくすねることを、心のなかでくり返し正当化する結果として起きることの方が多いのだ

報酬が一問につき一〇ドルになると、職場から鉛筆を一本失敬する程度のごまかしではなくなる。ペンやホッチキスを何箱かちょうだいする、コピー用紙をごっそり盗むといった行為に近くなり、目をつむったり、正当化したりするのがずっと難しくなるのだ

ふたを開けてみると、エイナフのために選ばれたトマトの美的品質は悪くなく、むしろタリのために選ばれたものより質が高かった。つまり売り手はわざわざ労をとって、またいくらかの売上を犠牲にしてまで、目の不自由な顧客のために、より高い品質の農産物を選んでくれたのだ

現金に引き換えられるトークンを、嘘を言って手に入れた協力者は、現金を直接手に入れるために嘘を言った人たちに比べて、二倍も多くごまかしをしたのだ

「カギは、家を泥棒から守るためにあるんじゃない。泥棒は本当に入りたけりゃ入るもんだ。カギのないドアを試してみたくなる。おおかた正直な人たちから家を守るために、カギというものはあるのさ」(ある錠前屋の言葉)

わたしたちは倫理基準を思い出させられるだけで、より高潔な行動をとるようになる

交通費の請求にも同じパターンが見られた。用紙の下部に署名する条件では、交通費の請求額が平均で九ドル六二セントだったのに対し、道徳心を呼び起こす(上部に署名する)条件では、平均五ドル二七セントだった

人は自己シグナリングと「どうにでもなれ」効果のせいで、たった一つの不正行為をきっかけに、それ以降の行動が一変することがあるのだ

カリフォルニア工科大学の一九七四年の学位授与式で、物理学者のリチャード・ファインマンは、卒業生に対するはなむけのスピーチでこう言った。「第一の原則は、自分をだましてはならないということだ。自分というのは、最もだましやすい人なのだ」

デザイナーとコピーライターが、道徳的柔軟性の水準で最上位に位置したのに対し、経理担当者は最下位だった。「創造性」が職務内容に含まれるとき、人はこと不正行為に関しては「やっちまえ」と思いがちであることがわかった

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『ずる 嘘とごまかしの行動経済学』ダン・アリエリー・著 早川書房

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152093412

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◆目次◆

序 章 なぜ不正はこんなにおもしろいのか
第一章 シンプルな合理的犯罪モデル(SMORC)を検証する
第二章 つじつま合わせ仮説
第二B章 ゴルフ
第三章 自分の動機で目が曇る
第四章 なぜ疲れているとしくじるのか
第五章 なぜにせものを身につけるとごまかしをしたくなるのか
第六章 自分自身を欺く
第七章 創造性と不正──わたしたちはみな物語を語る
第八章 感染症としての不正行為──不正菌に感染するしくみ
第九章 共同して行なう不正行為
    ──なぜ一人よりみんなの方がずるをしやすいのか
第一〇章 半・楽観的なエンディング
     ──人はそれほどごまかしをしない!

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