2012年10月13日

『新幹線お掃除の天使たち』遠藤功・著 Vol.3007

【新幹線「7分間の奇跡」はどうやって生まれたか?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4860635477

昨日ご紹介した、『50円のコスト削減と100円の値上げでは、どちらが儲かるか?』の教訓は、<もしかしてキッチンには宝が埋まっているかもしれない>でした。

そう、現場には経営改善のあらゆるヒントが落ちている、ということです。

しかしながら、現場に落ちているのは何も経営のヒントだけではありません。

現場にはしばしば、「感動のエピソード」も落ちているのです。

本日ご紹介する『新幹線お掃除の天使たち』は、最近テレビなどで話題になっている、東北・上越新幹線の車両清掃会社、テッセイの「感動エピソード」を紹介した一冊。

同社の上司や仲間たちが現場でコツコツと頑張っている人たちを褒めるしくみ「エンジェル・リポート」をもとに、現場にこだわる経営コンサルタント、ローランド・ベルガー会長の遠藤功さんがまとめた一冊です。

本書によると、<東京駅の東北・上越新幹線などの折り返し時間はわずか12分。降車に2分、乗車に3分かかるので、清掃にさける時間はわずか7分しかありません>。

テッセイのスタッフたちは、このわずか7分の間に、座席の向きを変え、100あるテーブルをすべて拭き、窓のブラインドを上げ、窓枠を拭く。座席カバーが汚れていれば、それを交換します。

また、トイレ掃除に携わるスタッフもいて、どんなに汚れがひどくても、この7分以内で完璧に終えるそうです。

清掃作業の前後では、ホームに新幹線が入った時点で一同ホーム側に礼をし、降りるお客様には「お疲れ様でした」と声を掛ける。清掃が終われば、乗客に「お待たせしました」と声を掛け、再度一礼し、次の持ち場に移動していく。

この規律正しく、颯爽とした動きに注目が集まり、今では海外メディアをはじめ、さまざまなメディアが取材に来るようになりました。

ただ、ご存じのように、テッセイはもともとこんなに素晴らしいサービスをしていたわけではありません。

これは、優れたマネジメントと変革の賜物なのです。

この「新幹線劇場」の仕掛け人は、現専務取締役の矢部輝夫さん。

もともとJR東日本東京支社の運輸車両部指令担当部長で、鉄道の安全システムに詳しい専門家。

そんな矢部さんが、平成17年、テッセイに異動させられたのがきっかけで、同社は変わり始めたのです。

もともと「あんなところに行くのか……」と思っていた矢部さんが、「どうせ行くなら、いい会社にしたい!」と思ってやり始めたテッセンの改革。

本書には、その仕掛けがまとめられています。

清掃員(コメットさん)の意識を変えるために制服を新調し、東京駅の駅長さんとの昼食会をセットし、エアコンを取り付け、さらに正社員登用制度にメスを入れた。

なかでも有効だったのは、平成19年に導入した前述の「エンジェル・リポート」でした。

<誰かが見てくれている、気付いてくれる。それが現場のスタッフのやりがいにつながって>いったそうです。

やはり、現場の力を高めるには、上司の「見る力」が必要不可欠ということなのでしょう。

また本書には、この変革後の感動エピソードがまとめられており、これがなかなか泣かせてくれます。

入社時にプライドを捨て、新しいプライドを得たスタッフの話、トイレ掃除を頑張るスタッフの話、安全柵に頭をはさまれ、おびえていた3歳の男の子をスタッフがなだめた話など、いくつか「感動エピソード」が収められています。

しかしながら経営的に感動なのは、それまでやる気のなかったスタッフたちが、みるみる変わり、自主的にお客様のことや業務の効率を気にかけるようになっていく様。

マネジメントが変われば、現場はここまで変われる、という良い見本を見せていただきました。

ぜひチェックしてみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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テッセイは旧国鉄時代の昭和27年に設立されたJR東日本のグループ会社。JR東日本が運行する東北・上越などの新幹線の車両清掃、東京駅・上野駅の新幹線駅構内の清掃などを主な業務とする会社です

テッセイには「エンジェル・リポート」と呼ばれる仕組みがあります。これは現場でコツコツと頑張っている人たちを、現場の上司や仲間たちが褒める仕組みです

東京駅の東北・上越新幹線などの折り返し時間はわずか12分。降車に2分、乗車に3分かかるので、清掃にさける時間はわずか7分しかありません

「自分たちの仕事は清掃だけではない。お客さまに気持ちよく新幹線をご利用いただくことだ」とみんなが理解し、納得したときに、テッセイの現場は大きく変わり始めました

「私はこの会社に入るとき、プライドを捨てました。でも、この会社に入って、新しいプライドを得たんです」

見えているからがんばるわけではありませんが、見えているからもっともっとがんばらなくてはとも思います

「新幹線は使い捨てじゃないからね」
「当り前ですよ。こんなに高価で、素敵なものを使い捨ててたまるもんですか」
すべてがきれいになって、また乗車していただける新幹線に仕上げたとき、私たちはそんな会話を交わしました(震災後、汚れきった車両を清掃した後のエピソード)

作業終了後、Tさんたちが整列し、丁寧にお辞儀をしたとき、それを見ていた親子連れのお母さまが小学校低学年くらいのお子さんに言いました。「ほらね、礼に始まり、礼に終わるのよ」

人間は、形から入る、格好から入ることが大切なこともあるのです。スポーツでよく言われるのは、道具や靴がその人の潜在能力を呼び覚ますことがあるということです

矢部さんは変わり始めた「コメットさん」たちの意識をさらに高めるために、さまざまな仕掛けを講じました。たとえば、JR東日本の東京駅の駅長さんとの昼食会をセットし、意見交換の場をつくりました。東京駅で仕事をしていながら、その「主」である駅長さんと話すことなど、それまでのテッセイでは想像もできない出来事でした。滅多に入ることのできない貴賓室も見学させてもらい、「コメットさん」たちは大興奮でした

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『新幹線お掃除の天使たち』遠藤功・著 あさ出版

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4860635477
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◆目次◆

プロローグ なぜ新幹線の車両清掃会社が
      これほど私たちの胸を打つのか?
第1部 「新幹線劇場」で本当にあった心温まるストーリー
第2部 「新幹線劇場」はどのように生まれたのか?
    ~「最強のチーム」が誕生する2500日の物語~

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