2012年8月28日

『ウォートン流人生のすべてにおいてもっとトクをする新しい交渉術』 スチュアート・ダイアモンド・著 Vol.2961

【ビジネス用語の面白辞典?】
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本日の一冊は、全米No.1ビジネススクールの誉れ高いウォートンスクールで15年連続人気No.1のすごい講義を初公開した一冊。

著者は、交渉術の世界的権威で、グーグル、マイクロソフト、JPモルガンなどのグローバル企業、さらには国連、世界銀行などの公的機関に指導しているスチュアート・ダイアモンド氏。

本書には、これまで交渉論を学んだ人も改めて学ぶべき交渉の技術が書かれていますが、驚くべきは、その実用性。

著者の教え子たちは、この交渉テクニックを実践することで、ボーディング・ブリッジから離れた飛行機を呼び戻したり、信じられない額のディスカウントを受けたり、支払いに応じない中国人に債務を返済させたり、目覚ましい成果をあげています。

なかには、リハビリに応じなかった父を説得した生徒の話も載っており、現在片足が不自由な土井の義父も、この交渉テクニックがあれば救えたのに…と悔しい思いをしました。

では、本書で書かれている交渉術は、類書と何が違うのか?

それは、「実力を行使しない」交渉術だという点です。

通常、交渉の本というと、心理テクニックを使って「影響力」や「実力を行使する」やり方を教えるものですが、著者によると、これらは相手との関係を終わらせ、「緊張、闘争、対立といった、誤ったメッセージを送る」ことになり、また「いつか必ず報復を招く」のだそうです。

もちろん、類書にも「ウィン・ウィンを目指すべき」といった主張は出てくるのですが、著者によると、これさえ「操作的な匂いがする」ためNG。

では、本書ではどうやって交渉をまとめるのか。

著者のやり方は、テクニックや利害ではなく、「人」に焦点を当てるというものです。

本書によると、「人が合意に至る理由のうち、内容と関係のあるものは一〇%にも満たない(中略)五〇%以上が、人と関係のある理由」だそうです。

また、「取引に関する交渉であっても、人は一人の人間として扱われると、そうでない場合に比べて、相手を助ける確率が六倍も高くなる」そうです。

では、どうすれば人重視の交渉ができるようになるのか?

著者は、相手の頭のなかにある絵を読み取ること、交渉の席にいない第三者のことも考えること、相手の立場や能力を認めることを勧めています。

戦って譲歩させるのではなく、「相手の自由になるものを認めることで相手に力を与えれば、あなたに何かをしてくれるはず」という視点は、目からウロコでした。

また、信頼できない相手との交渉では、相手の方法で「確約」を得ること、非協力的な相手の時は、規範を盾にすることなど、一歩進んだテクニックも書かれており、参考になります。

ほかにも、交渉を成功に導く「不等価交換」の概念、交渉が成立しない場合に取り得る最悪の選択肢「WATNA」、交渉を段階的に進めるスモールステップの原則など、さまざまなツール・テクニックが紹介されています。

お金を稼ぐスキルというのは、突き詰めると「交換」のスキルですが、本書を読むことで、その交換のスキルを高めることができます。

異文化に関する考察もあり、グローバルビジネスで成功したい人に、ぜひ一読をおすすめしたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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◆12の主要戦略
1.目標がいちばん大切だ
2.相手がすべて──「頭のなかの絵」を見る
3.「感情のお見舞い」をする
4.状況は毎回異なる
5.段階的に進める
6.不等価な価値のものを交換する
7.相手の規範を調べる
8.相手を操作せず、率直で建設的な態度をとる
9.コミュニケーションを絶やさず、目に映るままを言葉にし、ビジョンを描き出す
10.本当の問題をつきとめ、それをチャンスに変える
11.違いをありのままに受けとめる
12.準備する──リストをつくり、それを使って練習する

相手が一目置いている人で、あなたの力になってくれそうな第三者はだれだろう?

人は自分にとって大切な交渉ほど、理不尽な態度に出る

「あなたが嫌いだ」と言われたときの正しい返事は、「くわしく教えて」だ

相手の方針や例外規定、例外を設けた前例、過去の発言、意思決定方法を調べよう

共通の敵は当事者を結束させ、交渉をやりやすくする

優秀さとは、目標を達成する能力である

関係に自信がもてないときは、相手を信頼してはいけない。相手にすべてをさらけ出さないこと。不誠実な相手にとるべき対応は、不誠実なことをやり返すことではない。相手が信頼を失うようなことをしたからといって、自分の信頼まで失うことはない

信頼関係のないところでは、約束を破らないことに報奨を与える、何らかのしくみが必要

矛盾した言動をとりたくないという欲求は、人間心理の基本原理だ。だから、自分の規範(つまり過去の言動や約束)に従うか、矛盾を認めるかの選択を迫られると、たいていの人は自分の規範に従う方を選ぶのだ

交渉は小さなステップに分けるべきだ。ステップを踏むごとに、「アンカリング(係留効果、判断基準)」と「バイイン(了承)」が得られる

不等価交換を支える主要な原動力が、「無形物」だ。つまり、相手にとって価値のある、金銭以外のものだ

交渉で規範を利用する際には、証拠を提示することがとても大切

失敗したらどうなるかを、相手のためにわかりやすく描き出す

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『ウォートン流人生のすべてにおいてもっとトクをする新しい交渉術』スチュアート・ダイアモンド・著 集英社

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◆目次◆

第1章 これまでとはまったく違う交渉術
第2章 交渉の半分は「人」で決まる
第3章 相手の頭のなかをのぞく
第4章 非協力的な相手と交渉する
第5章 不等価交換
第6章 (相手のも自分のも)感情は交渉の敵
第7章 問題解決のためのゲットモア・モデル
第8章 文化の違いに対処する
第9章 職場でゲットモア
第10章 買い物でゲットモア
第11章 人間関係
第12章 子どもと交渉する
第13章 旅行先でゲットモア
第14章 街中でゲットモア
第15章 社会問題
訳者あとがき

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