2012年3月5日

『世界史(上)』ウィリアム・H・マクニール・著 Vol.2784

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本日の一冊は、東大・慶應・早稲田で文庫ランキング1位、世界中で40年以上読み継がれているというオックスフォード大学出版局のロングセラー、ウィリアム・H・マクニールによる、“A WORLD HISTORY”の邦訳です。

あまりに話題になっているので読んでみたところ、これは正直、「やられた」と思いました。

土井はつねづね、日本の世界史の教科書には、因果関係とストーリー、そして動機が欠如している、と思っていたのですが、本書は史実にそれを補うことで、世界の歴史をヴィヴィッドに浮かび上がらせてくれるのです。

なぜ本書がこんなに面白いのか、その理由は、序文のこんな文から理解することができます。

「世界の諸文化間の均衡は、人間が他にぬきんでて魅力的で強力な文明を作りあげるのに成功したとき、その文明の中心から発する力によって攪乱される傾向がある」

「時代が変わるにつれて、そのような世界に対する攪乱の焦点は変動した。したがって、世界史の各時代を見るには、まず最初にそうした攪乱が起こった中心、またはいくつかの中心について研究し、ついで世界の他の民族が、文化活動の第一次的中心に起こった革新について(しばしば二番せんじ三番せんじで)学びとり経験したものに、どう反応ないしは反発したかを考察すればよいことになる」

どうでしょうか。これを読むだけで、本書が他の教科書と「違う」ことがおわかりかと思います。

そう、この本は、点と点がつながって線になる、そんな知的体験を楽しめる、世界史教科書なのです。

土井は高校時代、世界史専攻でしたが、この教科書を当時知っていればどんなによかったか、と悔やまれます。

今からでも遅くはない。ビジネスマンの教養として、ぜひ読んでおきたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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人間の歴史における最初の注目すべき出来事は、食糧生産の発達だった。これによって人口が飛躍的に増大し、文明発生の基礎が築かれたのである

それから約一千年ばかりして、人間は、文明化した複合社会を、降雨によって水を与えられる地方にまでおしひろげはじめた。その際、犂の発明は決定的な役割を果たした。これによって、動物の力を利用して農耕が行えるようになり、耕作者個人の力で食糧生産力を充分増大させることが可能になった

農耕民は、畠で規則正しく、骨おしみせずにきちんと働かねばならず、また植えつけのための正しい季節を見きわめるために、時をはかる必要をもつ。こうしたわけで、農耕民の生活スタイルは狩猟民のそれとはちがったものになった。未来への見通しを持つことや自分をおさえることも必要だった。飢えのときですら、未来の収穫を確保するため適当量の種子を取っておかねばならなかったからである。勇気とか力に訴える習慣は、狩猟民にはなくてはならぬものだったが、農耕民にはさして重要でなかった

測定の技術は、それまでになく重要かつ正確なものとなった。運河や溝の建設、平原上に人造の山のようにそびえる巨大な神殿建築などは、正確な測定と綿密な計画なしにはありえないものだった

暦を伝えてゆくためには知識が必要だったが、その知識のおかげで、神官たちは社会のうちでも特にきわだった地位を占めることができた。一般の農民にしてみれば、季節を予言することのできる人たちは、神々と特別な関係にあり、尊敬に価すると考えられたのである

どんな軍事的衝突においても、上流の都市は常に有利な立場にあった。というのは、それは、下流の町の運河を断ったり、水の供給を止めることができたからである

鉄器時代の蛮族が軍事的成功をおさめたのは、だれでもが戦力のある兵士になれるような、未開の平等な共同体社会の持つ心理的統合があったからである

仏教は、その初期形態において、人間生活一般の危機的時期──誕生、死、結婚、成年その他──に対応する儀礼をなにも持たなかった

生産手段や輸送手段が技術的に限られている時代には、もしある人々が、高い文化を身につけ、それをさらに高めるために暇な時間を持つべきであるとするならば、ほかのある人々は自由な時間なぞ全然ないことが絶対に必要

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『世界史(上)』ウィリアム・H・マクニール・著 中央公論新社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4122049660
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◆目次◆

第I部 ユーラシア大文明の誕生とその成立
紀元前五〇〇年まで
第II部 諸文明間の平衡状態
紀元前五〇〇──後一五〇〇年

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