2010年10月27日

『商家の家訓』吉田實男・著 vol.2289

【商売の知恵は、大商人の家訓にあり】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4433407003

昔から、いろんな社長さんと話していて実感すること。

それは、「商売繁盛している社長さんは、商売人の子どもであるケースが圧倒的に多い」ということ。

それは一体なぜなのでしょうか。

遺伝という方もあるかもしれませんが、実際の商売は、意思決定と行動の結果、お金が儲かるので、それよりもむしろ正しい規律、基準を持つことの方が重要です。

では、なぜ商売人の子どもは商売で成功する確率が高いのか。

それは、ズバリ「家訓」があるからです。

明確に記述していない家も多いと思いますが、いわゆる大商人の家では、きちんと明文化しているのが普通。

本日ご紹介する『商家の家訓』は、まさにそんな大商人たちの家訓をまとめた一冊です。

本書は、大阪国税局で長年活躍した著者が、日本を代表する商家の家訓をまとめた大著で、近江商人最古の歴史をもつと言われる西川家(「ふとんの西川」で有名)の家訓や、酒屋・金融業で栄えた博多商人島井家の家訓、のちに三和銀行グループから現在の三菱東京UFJグループにつながる関西の豪商、鴻池家の家訓など、さまざまな商家の家訓が登場します。

個人的に興味を持ったのは、数多くの近江商人を輩出した外村與左衛門の家訓で、この家訓では、経営者の規律から、取引先への配慮、売買に関する心構え、債権の回収、別家した者の心得、部下の扱いまで、さまざまな点を戒めています。

「売りて悔やむは商人の極意」(高値で売りつけた商品が下落して喜んではいけない)「古くからの取引先であっても、約束に違反して、少しでも支払いの期限に遅れることがあれば、その時限りとして、以後の取引は堅く断る」など、現在でも通用する商売の教えがてんこ盛りです。

面白いのは、どこの家訓でも、倹約を重んじ、賭け事を禁じ、家庭円満を勧めていること。

商売の成功に奇策なし、ということを改めて教えてくれる、素晴らしい一冊です。

日本を代表する豪商たちの歴史と、彼らの家に代々伝わる教えが学べる、まさに商売人のバイブル。

経営者が自分を律するための一冊として、ぜひおすすめしたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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家を維持する方法は、家が狭くても、修理して見栄えよくすることである。また、商人が自分の全財産を仕入れにつぎ込むと、相場の高下によって、どうにもならないことにもなる。いつでも自分の財産の6、7分を商売用とし、3、4分程は常備金として、将来を考えた商売をすることである(中村治兵衛の家訓・第5条)

博打や勝負事を好むこと、又贅沢をすること、これは、天道を恐れずに、自分の本能のままに生きるようなものであるから、神様や仏様の罰を受けて、家を売り、最後は子供が乞食をすることになる(中村治兵衛の家訓・第10条)

◆外村與左衛門家の心得書 ※一部紹介
第1条「自分勝手の戒め」
平生から自分の好きなことばかりするのを慎み、できるだけ自分が
いやなことからやるように努めるべきである
第5条「取引先や懇意な先では礼儀正しくすること」
商売上の取引先や懇意にしているところから招待されることがあっ
ても、お断りして、できるだけ出席しないようにすること…
第19条「売りて悔やむ」
…決して、損得に迷わず、人々が望んでいる時は、その機会を逃さ
ずに次々と売り渡すことである(中略)売った後で、さらに値上が
りして、悔しい思いをするのが末永い繁栄の秘訣であるので、「売
りて悔やむ」ことは商売の極意であることを、心得ておくことである
第24条「取引の心得」
買い先、売り先ともに、必要以上に懇意になると、取引においても
何となしに安易に流れて、本来の商売ができなくなることを、よく
心得ておく必要がある
第38条「主人への感謝」
主人の信用を、自分の働きや力によるものであると、考え違いをし
てはならない(中略)決して自分の思いにまかせて、主人への忠節
を乱すようなことはしてはならない

◆角倉素庵の船中規約 ※一部紹介
第2条「異邦の人も皆同胞」
異国と我が国とは、風俗や言葉の違いはあるけれども、天より授か
った人間としての本性には何ら違いはない。それを忘れて異なると
ころを不思議がったり、欺いたり嘲ったりすることは、たとえ僅か
でもしてはならない

◆鴻池家の家訓 ※一部紹介
第4条「本業を大切に」
…いくら利益が上がるからといっても、本業以外は、絶対に行って
はならない。万一、そのようなことをしたならば、世間の評判も悪
くなるから、末代に及ぶまでも無用とすること

◆酒田の大富豪、本間家の家訓 ※一部紹介
第7条「子弟の縁組」
富豪のものと縁組してはならない。当然のこととして、清らかでさ
っぱりした家庭の子女と結婚すべきである

◆関西屈指の豪農、伊藤長次郎の家訓 ※一部紹介
第10条「他人への施し」
乞食が門前で物乞いをしていたら、「向こうへ行け」などと言って
はならない。家の構えが大きくて豊かな生活をしている家は、それ
だけ多くの施しをするべきである
第20条「結婚相手」
女が美しいのは国を亡ぼす原因になるといわれている。したがって、
美人を女房にするのは、女房に注意が行って仕事に集中できないか
ら、避けたほうがよい。美人でなくとも、気立てがよく心優しい女
がよい。また、一般的に姑に似た嫁がくるというから、気立てのよ
くない女房を持てば、代々の女房が悪くなる
第38条「ケジメ」
一家においては、主人も使用人も共に同じ惣菜を食べよ

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『商家の家訓』吉田實男・著 清文社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4433407003

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◆目次◆

第一章 現在の経営環境
第二章 江戸時代の商人の倫理観
第三章 家訓の誕生
第四章 近江商人の家訓
第五章 全国各地の豪商の家訓
第六章 財閥の家訓
第七章 今も続く老舗百貨店の家訓
第八章 今も続く製造業の家訓
終章 豪商とは

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