2010年9月5日

『福田和也の超実践的「文章教室」』福田和也・著 vol.2237 

【文芸評論家、福田和也による文章術】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4847060105

先月、今月はいつになく面会コンサルティングが増えていますが、最近、ビジネス書作家の方に申し上げているのは、「豊かな読書体験がないと良い作家になれない」ということ。

それぐらい伝えるために「読む」ことは大切なのです。

こういうと、すぐにビジネス書を読みまくる人がいるのですが、質を上げようと思ったら、何事も吟味することが重要。

もし、読者の狙いが文章力の向上にあるのなら、純粋に文章だけで評価される文芸の世界に学ばない手はありません。

そういう意味でおすすめなのが、本日の一冊、『福田和也の超実践的「文章教室」』。

最初は、「たまには文芸の世界の文章論も読んでみるか」ぐらいの軽い気持ちだったのですが、村上春樹や江國香織、柳美里などの人気作家、そして夏目漱石、谷崎潤一郎、小林秀雄、向田邦子などの大作家の文章の奥深さに触れるうちに、すっかり彼らの観察眼、人間洞察、そして表現の深さに引き込まれてしまいました。

時制を巧みに使いこなした松本清張の『西郷札』、『わが友マキアヴェッリ』で、500年前の人物を現代に甦らせる塩野七生の目のつけどころ、暴力シーンを詩的に変える柳美里の文章術…。

さまざまな文章サンプルと、福田和也氏の解説を読むことで、名文家たちの文章術を奥深いところで理解し、吸収することができる、ものすごい内容です。

逆に言えば、優れた文章家になりたければ、ここまで深く読みなさい、ということ。

読者が何であれ、伝えることを仕事とするなら、本書は「買い」の一冊です。

ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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デビュー以来、村上(春樹)氏は、たくさんのアメリカ文学、フィッツジェラルドからサリンジャーにいたるまで、実に多くの小説を翻訳していますが、これこそが氏の圧倒的な文章力、表現力の源泉です。氏がつねに進歩しつづけることができたのは、翻訳という、読みとり、自らの言葉で書くという、読む力と書く力を直接結びつける行為を倦まずに続けてきたからだ、といえると思います

小説の技術のなかで、「人称」と「時制」をどう設定するかは大きな課題

時制をうまく使っているなぁと思わせるのは、たとえば松本清張の『西郷札』です。冒頭、展覧会をやることになり、そこに西郷札という西南戦争のときに使われたお札が展示されることから、そのお札をめぐる詐欺がかつて行われたという中心的な話になっていきます

塩野七生氏の『わが友マキアヴェッリ』では、「その人は何を奪われたら一番苦しむのか」という問いを投げかけ、それを解き明かす形で文章を進めていきます。この問いかけにより、五百年も前の人物が現代に甦る。何百年も前の人物の心臓をわしづかみにして現代に持ってくるその握力は素晴らしい、の一言に尽きる

下手な書き手は、ストーリーを進めていくための情報伝達を会話のなかでやってしまいますが、現実での会話で情報を伝えることはあまりありません。小説のなかで会話を会話として成り立たせるためには、二人の人物像や関係性を周到に作る必要があります

読者が興味を持つところは、その場面が目に浮かぶように細部まで描き、主眼ではない箇所は軽く流す

カッコいいことは誰でも書けます。逆に自分の愚かさ、みっともなさを主人公がわかっていないとすることで―私小説といえども主人公と作者は別だと考えるべきで、そこに作者の技巧がある―すごい力を持つことがあります。愚行への言い訳をくだくだ書かず、事実だけを書く力でもあるが、「へりくだりの力」、つまり読者より一段低い位置に主人公を設定することで、普通の人間では書けないことも書ける。それが文学の力です

いま自分が立っている場所は、どんな人がどのようにして築いてくれたのか。当然だと思っているものを支えている根本には何があるのか、それを考えることが批評だと私は思っているのです

「自分の考え、感性」といったものでも、それがいかに「自分以外」のものに左右されているかを意識すること。学ぶとは、そのようにして自らの存在を、歴史的な視点で考えることでもあるのです

◆文章上達に必要な三つの要素
1.上手な文章のイメージを明確にする
2.構成力・企画力
3.豊かな語彙と言い回しの工夫

小林秀雄は、「エピソード」「情報」「描写」とつなげることで、自分の「信じる」ことを読み手に伝えようとしました。進化学者の今西錦司は、資料をどんなに集めても「一+一=二」にしかならない論文はおもしろくないと言いました

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『福田和也の超実践的「文章教室」』福田和也・著 ワニブックス
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4847060105

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◆目次◆

はじめに 書き方=虚構(うそ)のつき方
第一章 「読む力」文学賞に挑む
作家の技術を点検する
エロス、恋愛を描く
日常をい切り取る
青春の喪失への立ち位置
日本とは何か、日本人とは何かを意識する
物書きの生き方を味わう
第二章 「書く力」
垂れ流しの文章はなぜダメなのか
「プロの文章」を目指す
文章上達に必要な三つの要素
「書く力」実践編 実例で学ぶ13のポイント
第三章 「調べる力」
ディティールこそが命
拙作「美智子皇后 もう一つのルーツ」はどう書かれたか
「美智子皇后 もう一つのルーツ」再録

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