2010年5月1日

『これが「教養」だ』清水真木・著vol.2110

【感じの悪いタイトルだけれど…】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4106103613

『これが「教養」だ』。

「俺がお前に教養とは何かを教えてやるよ」といったイメージの、何とも感じの悪いタイトルですが、実際の内容はまったく違います。

本日ご紹介する一冊は、明治大学商学部教授で、哲学を専門とする清水真木さんが、「教養」の語源から、それがわれわれの生活に導入された過程、そしてその意味がどう変容して行ったかを述べた、知的読み物です。

まず目から鱗だったのは、冒頭で、教養とは、「公共圏と私生活圏を統合する生活の能力」と定義している点。

「ワークライフバランス」などという言葉で語られるように、われわれは日々、いかにして仕事とプライベートを両立させるかに腐心しているわけですが、そこを分けるのでなく、「教養」によって統合するという、新しいコンセプトが語られているのです。

公共圏(政治)、私有圏(職場)、親密圏(家庭)という3つに加え、第4の新しい秩序、すなわち「自分らしさ」を入れることで、これを統合しようという考え方は、じつに新鮮でした。

また、完全に打算的な人間が教養人たりえることや、「古典とは、新しいものを正当化するために現れた古いもの」という解釈にも、うならされました。

そもそも「教養」とは何か、を理性的に論じながら、さりげなくわれわれ読者に教養を教えてくれる本書。

著者が謙遜して言っているように、役立たない本ではありますが、だからこそ、ビジネスマンには、思想・生き方を考えるために、ぜひ読んでいただきたいと思います。

藤原正彦さんがおっしゃるように、大局観を作ってくれるのは、何の役にも立たない「教養」である。

時間を忘れて読みふけりたい、そんな一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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教養とは、「公共圏と私生活圏を統合する生活の能力」

一八世紀後半の、もともとの公共圏とは、政治のため、政治のためだけの空間でした。つまり、公共圏が成立するということは、もとは一つであった生活が、政治にかかわる部分とそれ以外の雑多な部分に分割されることを意味していたのであります

もともと一つであった生活は、三つに分割いたします。つまり、公共圏、私有圏、親密圏という三つに分かれてしまうことになります。
このことは、一人の人間の一日の生活が三つに分割するということ

市民社会が生れる前の時代には、一人の人間の生活が、居場所に応じてまったく異なるルールに支配されることはございませんでした。
言い換えますと、社会はつねに、一人の人間を丸ごととして受け入れていたのであります

ギリシア人は、生活の公的な部分と私的な部分を統合するために、公共圏、つまり政治的な活動の場面に対して圧倒的かつ決定的な優位を与え、政治以外の私的な活動をすべてこれに従属させてしまった

◆第四の新しい秩序を見つける
職場での役割、家庭での役割、政治の場面での役割の他にもう一つ、家庭内での立場からも独立した、政治的な主張からも独立した、職場での地位からも独立した、つまり、いつ、どこで何をしているときにも変化することのない「自分らしさ」なるものを見つけ出すということ

完全に打算的な人間、自分の利益以外には何も考慮しない人間は、「教養ある人間」であること、少なくとも「教養ある人間」を代表する典型の一つ

教養と功利主義、両者がいずれも一八世紀後半に姿を現したこと、これは偶然でも何でもございません。教養と功利主義の背後には、共通の時代的な要請があった

修養は、それだけを目指すことはできず、結果としてくっついてくるだけであるのに反し、教養はそれだけを目指すことができるものであると信じられている

どうも、「俗物」っていうのは、こうした人々、つまり、加藤周一の生れ育ったような環境に憧れたり、過剰な拒絶反応を示したりするような人間のことを言うんじゃないか

教養書というのは、「実用書」ではない書物一般を指し示すのに使われる言葉(中略)「教養」が「実用」の反対語でありますなら、教養とは実用的でないものでなければなりません。つまり、教養は非実用的なもの、身も蓋もない言い方をしますなら、役に立たないもの、無駄なものということになります

古典とは、新しいものを正当化するために現れた古いもの

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『これが「教養」だ』新潮社 清水真木・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4106103613

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◆目次◆

第1章 手垢にまみれた教養の本当の姿
第2章 「教養」という日本語の考古学
第3章 「輸入の缶詰」を開けてみる
第4章 教養を生れたままの姿で掘り出そう

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