2009年9月9日

『言葉に魂(おもい)をこめて』三宅正治・著 vol.1878

【三宅正治アナ、初の著書】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/484701863X

本日の一冊は、フジテレビのトップアナウンサー、三宅正治氏による初の著書。

局を代表するアナウンサーがしゃべりの極意を披露する、ということで手に取ったのですが、いい意味でも、悪い意味でも期待を裏切られました。

まずいい点から言うと、本書にはテクニックでは決して表現できない言葉力の本質が書かれているということ。

悔し涙をうれし涙と勘違いして実況し、選手に怒られた話、ディープインパクトのラストレースで飛び出した名実況の裏側、アイルトン・セナが亡くなった日のF1での解説・今宮さんのコメント…。

「しゃべりは『テクニック』なんかじゃない」と喝破する著者の気持ちが、エピソードを通じて伝わってきます。

本当に人の心を動かす言葉がどこから生まれてくるか、おぼろげながら見えてくる、そんな内容です。

しかしながら一方、残念なのは、本書が誰に向けて書かれたのか、まったくわからないという点。

先輩からの教訓が出たかと思えば、アナウンサー試験に合格するための極意が説かれ、あるいは実況の裏側の話になる。

著者のファンという以外に、リアルターゲットが見えなかった。そこが非常に残念です。

また、文体についても、テレビのしゃべりをそのまま表現することが正直、裏目に出てしまった。そんな気がしています。

それでも、人前でしゃべる人には、いい気づきをもたらしてくれる素晴らしいエピソード集&教訓。

これから著者になる人、すでに活躍中の人は、ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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僕は新人の頃、とある先輩からこんな事を教わりました。「半分の人に支持されて、半分の人には支持されない。そんな存在感のあるアナウンサーになりなさい」

アナウンサーにとって、一番難しい事……。それは「インタビュー」です

僕はアナウンサーにとって、というより「人間」にとって、一番大事なのは「聞く事」だと思っています

アナウンサーは「トーキングマシン」ではないと初めに書きました。もちろん言葉をしゃべる職業ですが、それはつまり「気持ち」や「想い」を伝える職業なんです。それは被取材者の気持ちであったり、視聴者の気持ちであったり、アスリートの気持ちであったり……さまざまな想いをテレビを通してみなさんに伝えていく、それがアナウンサーの仕事なんです

フジテレビの新人アナウンサーの研修に使う「アナウンサー教本」の表紙にはこんな言葉が書かれています。「声は人なり」つまり、言葉には心が、そして人間性が宿るのだという事を決して忘れてはいけない

最初に質問をぶつけて、さらにそのあといろんな言葉をつないで時間を稼いであげる……これはひとつの「相手を思うテクニック」です

プロ野球解説者の権藤博さんが若手アナウンサーに言った言葉で、「なるほど!」と思った事があります。「トスをあげるのがアナウンサーの役目だろう。お前が決めにいってどうするんだ! お前が『ふり屋』で俺が『決め屋』だろう」

「あれは嬉し涙じゃないの! 自分の満足いく試合ができなかったから、悔しくて泣いてたの! 試合展開を見ればわかるでしょ!あの試合にどれだけ私が賭けていたかわかる? それがあんな試合をして……。それで私が嬉し涙を流しているなんて。ちゃんと伝えてよ! あれじゃ、私が馬鹿みたいじゃん!」何歳も年下の選手に怒られても、何も言えませんでした。それから僕は、もっと事前取材が必要で、試合中ももっと彼女達の気持ちを汲み取らないといけないとようやく気づかされたんです

◆東京アナウンスセミナー代表 永井譲治さんの教訓
「話すのは、自分のためではないんです。人のために話すんですよ」「すぐそばで苦しんでいる人がいたら、その人を愛してあげましょう。自分のすぐそばの人すら愛せない人間に、多くの人を愛する事はできません。一人の人すら愛せない人に多くの人に愛を与えられるアナウンサーになれるはずがありません」「本当に大切なことは一言なのかもしれません。つい我々は言葉を重ねてしまうけど、大事なのは一言にこめられる想いなのです」「大切なのは自分を見失わない事。謙虚さは自分を無にする事ではありません。自分の至らなさに目を背けず、成長していく事です。自分の信じた道を信じたいのです」

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『言葉に魂(おもい)をこめて』ワニブックス 三宅正治・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/484701863X
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◆目次◆
第1章 しゃべる事って難しい?
第2章 思い出の実況トークその1
第3章 アナウンサーを目指すみなさんへ
第4章 思い出の実況トークその2
第5章 アスリート達の言魂
第6章 そして…最後に

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