2008年11月29日

『強欲資本主義ウォール街の自爆』神谷秀樹・著

【ウォール街の真実を暴く】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166606638

経営破たんしたアーバンコーポレイションの資金調達に伴い、BNPパリバにグレーな取引があったことが問題となっています。

これは、金融業としてのモラルを問われる問題であり、今回の金融破綻の背後にある、金融業界の強欲さを示す象徴的な出来事です。

本日ご紹介する一冊は、この金融業の強欲の実態を、ゴールドマン・サックスで働いた経験を持つNY在住の日本人投資家、神谷秀樹さんが紹介した一冊。

ゴールドマン・サックスをはじめ、現在の金融業が抱えるモラルの問題、安易に利ザヤを得ようとする手口、そして現在の金融が構造的に抱える問題点…。

経営者を騙し、優良企業を食い物にするやり方には、驚きを超えてあきれてしまいます。

これは、もはや人ごとではなく、経営者にとっては自社のビジネスを守るための処世術、そして政治家・国民にとっては国の産業、国民の生活を守るための哲学の問題だと思います。

本書の興味深い点は、いわゆる名経営者と呼ばれる人々の言動と、ウォール街の強欲企業の非道徳的な行動を対比しながら論じている点。

モノ作りに邁進するトヨタとモノ作りを忘れたGM、会社を売買の道具とみなす経営者と、長年貢献した幹部社員に計60億円相当の持ち株を贈与した伊藤雅俊氏…。

興味深い対比によって、読み手を飽きさせることがありません。

見せかけの数値ではなく、人類の幸福のために貢献できる真のビジネスマン、ノーブリス・オブリージュの精神を持った金融マンの登場を願って、本書をおすすめしたいと思います。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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主役である実業を営む方たちの事業構築を助けるのが金融本来の仕事のあり方であり、それこそが身分相応なのである

多くの投資銀行の顧客サービス部門は、投資部門とは明確に分離され、顧客に対しては「二つの部の間にはチャイナ・ウォール(万里の長城のような高い壁)があります。これはまるで二つの別の会社です」と説明するようになった。しかし、多くの投資銀行や商業銀行において、これは言い訳にすぎないだろう。何よりトップは同じだし、実際にはたくさんの情報交換が行われている

バンカーにあなたの会社の業界に関して、各社の強み、弱みを丁寧に説明したとする。そのバンカーが所属する投資銀行が、次の、競合他社を買収し、突然競合者になってしまったらあなたは何と感じるだろうか。二度と業界の知識を披露しようとは思わないだろう。そうしたことが当たり前のように起こる時代になってしまったのである

企業は顧客のために働くことこそが至上命題

GEの収益のうち家電部門が占める割合はもはや一四%に過ぎず、将来性の無い、不採算部門と判断された。現在、GEで最も大きな収益を上げている部門は金融部門だ

エクイティー(土地や株など)が値上がっている時は、借り入れすればより大きく儲けることができる。しかし、値下がりしたときは、不動産物件を売っても買値を下回っているために借入金を全額返済することはできない。結局、焦げ付くということである

金融の世界では人間の学習能力は低いといわざるを得ない。おそらく、その根底には際限のない人間の「欲」というものがあるからだろう

政府高官になると、民間との利益相反関係を防ぐために、持ち株を売却するよう求められる。これは強制力をともなうため、売却した株式の値上がり益には課税されないという特典がつく

初めから買収ありきという態度は、わざわざ「私はカモネギですよ」と投資銀行に伝えているようなものなのだ

ウォール街は納税者に自分たちの損を押し付けることが得意であり、大好きだ

アメリカ政府が現在もっとも恐れていることには、(一)サウジ・アラビアがドル・ペッグを止めること、(二)イスラエルがイランの原爆製工場を爆撃し、その報復にイランがホルムズ海峡を閉鎖し、石油の輸送を不可能にすること、(三)経済成長が停滞した中国で人民の不満が爆発し、国家が大きな混乱に落ち込むこと、(四)グルジアでの対立に始まるロシアとの冷戦の復活、がある

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『強欲資本主義ウォール街の自爆』文藝春秋 神谷秀樹・著
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166606638
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◆目次◆

序章 アメリカ経済はなぜ衰退したのか
第一章 ゴールドマン・サックスの変質
第二章 モノ作りができなくなったアメリカ
第三章 今日の儲けは僕のもの、明日の損は君のもの
第四章 強欲資本主義のメカニズム
第五章 資産運用ゲーム
第六章 サブプライム危機から世界同時不況へ
第七章 バブル崩壊にいかに立ち向かうか
あとがき

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