2008年1月6日

『欲望する脳』

【現代社会の問題を「欲望」と「脳」で読み解く】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087204189

本日の一冊は、最近、テレビをはじめさまざまなメディアで引っ張りだこの脳科学者、茂木健一郎さんによる話題の一冊。

集英社のPR誌「青春と読書」に24回にわたって連載された「欲望する脳」に一部加筆・修正したもので、内容は、現在の社会問題に脳科学の見地から解決のヒントを示した論考、といったところ。

もともとが細切れの連載ということもあり、体系的に脳科学を学びたい人にとっては期待外れかもしれませんが、現在社会が抱える問題の深層に迫りたい方、脳の使い方を正しく知って充実した人生を歩みたい方には、おすすめの一冊です。

冒頭で著者が指摘しているように、現代の資本主義社会では、「生
産力は常に需要を上回る危険をはらみ、経済システムを維持するた
めにも、欲望を解放し、消費を奨励することが求められた。その結
果、欲望を我慢しないという点において、現代の成人は、むしろ子
供に近付いてきている」。

それが現在のさまざまな社会問題を引き起こしていると考えるとゾ
ッとする話ですが、それでは一体われわれは、この欲望奨励の資本
主義社会でどう生きていけばいいのか。

本書にはまさにそのヒントが書かれています。

なかでも、「容易には実現できないことをいかに志向するか?」や、
「自分自身に対して演劇的に振る舞う」能力、そして他者との関わ
り合いは、欲望とうまくつき合うために、じつに重要なことだと思います。

現在の社会問題にはじまり、人生、キャリア、子育て、学問にいた
るまで、じつにさまざまなことを考えさせられる一冊。

みなさんもぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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人間存在の本質は、他人の心がわかるということである。そのはた
らきを支えるのは、脳の前頭葉にある他人と自分を鏡のように映し
合う「ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞である。ミラーニュ
ーロンの助けを借りて、私たちは他者を鏡として自分をみがいてい
く。同じような鏡にばかり映していたのでは、自分の姿を多角的に
見ることができない

生産力は常に需要を上回る危険をはらみ、経済システムを維持する
ためにも、欲望を解放し、消費を奨励することが求められた。その
結果、欲望を我慢しないという点において、現代の成人は、むしろ
子供に近付いてきている

人間をはじめとする動物の欲望の根底には、自他の区別がある。欲
望は、その基本的な形式において、必ず自己とは峻別される「他者」
に対して向けられる

他人に対しては、やったことは基本的に返ってこない。この点にこ
そ、自他の区別の上に立つ欲望が潜在的に抱える脆弱性がある

主語を、より操作性の高い概念で置き換えること。これこそが、科
学が地道にやってきたことでもあった

現代人は、誰でも多かれ少なかれ、一人で複数の文脈を引き受けて
生きる「多重文脈者」である

その時々に自分が置かれた文脈を引き受けなければ、複雑に発達し
た分業のネットワークによって支えられた現代文明の中で生きるこ
とはできない。その一方で、文脈に過剰に適応する、「井の中の蛙」
ならぬ「文脈の中の蛙」になってしまっては、文明を推進するエン
ジンであるイノベーションは起こらない

「粗さ」の中に潜んでいる「精しさ」への予兆にこそ、私たちはむ
しろ惹き付けられる

現実世界は時に過酷であり、物理的法則の進行は意味の世界の脈絡
など顧慮してくれない。だからこそ、人間は、夢の中で、現実の消
息ではなく、詩的真実をこそ抱くことを願う

容易には実現できないことをいかに志向するか? そのこと自体が、
現代における一つの倫理命題である。人は、不可能なことに真摯に
向き合った分、大きくなれる

生の一回性に熟達した人とは、自分自身に対して演劇的に振る舞え
る人を指すのであろう(中略)演劇性を支える脳のはたらきは「メ
タ認知」であり、自分自身をあたかも外部から見ているように客観
的に観察することである

元来、脳の中で「報酬」を表すドーパミンは、「サプライズ」を好
むように設計されている

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『欲望する脳』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087204189
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◆目次◆

まえがき
01 心の欲する所に従うこととは?
02 欲望に潜む脆弱性
03 意識ある存在にとっての倫理
04 主語に囚われずに考える
05 個別と普遍
06 現代の野獣たち
07 現代の多重文脈者たち
08 子供であることの福音
09 「精しさ」に至る道筋
10 私の欲望は孤立しているのか?
11 デジタル資本主義時代の心の在処
12 人間らしさの定義
13 夢の中ではつながっている
14 欲望の終わりなき旅
15 容易には自分を開かず
16 近代からこぼれ落ちた感情
17 不可能を志向すること
18 アクション映画とサンゴの卵
19 欲望と社会
20 一回性を巡る倫理問題
21 魂の錬金術
22 生を知らずして死を予感する
23 学習依存症
24 一つの生命哲学をこそ
あとがき

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