2006年10月22日

『資本主義から市民主義へ』

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4403231055

本日の一冊は、独自の貨幣論で定評のある論客、岩井克人さんが、
貨幣や資本主義、法人の本質について語った、注目の論考です。

なぜお金に対する欲望には終わりがないのか、なぜ経営者には倫理
が求められるのか、現在の社会で起きている問題の本質は何なのか…。

まるで哲学書のように、緻密なロジックで話が進められていくため、
「ラクに読めてすぐ役に立つ」といった性質の本ではありませんが、
われわれの経済活動の大前提を考えるという意味で、じつに意義の
ある本だと思います。

貨幣を、「元祖デリバティブ」と言い、「人類は貨幣を使い始めた
ときから投機という現象に直面せざるをえなかった」とする著者は、
現在の資本主義論の建前を次々と打ち崩し、その本質に迫っていきます。

本書を読むと、いかにわれわれの基盤となっているシステムが脆弱
で不安定なものなのか、何が起こるとその基盤が揺らぐのか、じつ
によくわかります。

巷では、「お金持ちになる方法」や「自由を手に入れる方法」「心
の安らぎを手に入れる方法」などの処世術があふれていますが、そ
のくせ、そもそもお金とは何なのか、自由とは何なのか、なぜわれ
われは不安になるのか、といった質問に答えられる本はほとんどあ
りません。

期待していた市民社会論、人間論はどうやら未完成のようですが、
貨幣論から信任論のところをまでを読むだけでも、現代社会が抱え
ている問題の本質と、その解決の糸口はつかめると思います。

あいまいな不安や恐怖にあおられて走り出す前に、ぜひ読んでおき
たい一冊です。

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■ 本日の赤ペンチェック
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生産や消費こそ本源的な経済活動であり、金融活動をそのたんなる
派生と見なすこのような伝統的な考え方こそ、経済の本質を見損な
っている

人類は貨幣を使い始めたときから投機という現象に直面せざるをえ
なかった

貨幣とは、金や銀のかたちをもとうと、紙切れでつくられていよう
と、それをすべての人が貨幣として使うから貨幣として使われると
いう自己循環論法によってその価値が支えられている

資本主義がつづいていくためには、差異性がなくてはならない。利
潤は差異性から生まれるからです。そこで、資本主義は意図的に差
異性を作り出すようになる

貨幣を使わない自由をみんなが同時に行使すると、ものが売れなく
なって不況になってしまう。その結果、自由を行使する場が狭めら
れてしまうのです

貨幣をもつことは、将来にどのようなモノでも買うことのできる可
能性をもつことであって、可能性ならいくらでも足していくことが
できる。その意味で、貨幣とは、人間にけっして飽和しない無限の
欲望を与えることになったわけです

自分を所有することが自分になることですが、そのことに不安をも
つ。自分が自分でないと感じることを、他者を所有することで解消する

資本主義社会は倫理性を絶対に必要とする

もっとも根源的な人間の関係は信任関係であって、契約関係とはそ
の派生的な形態である

倫理とは、人間が死ぬ存在であることと本質的にかかわっていると
思っています。なぜなら、人間が永遠に生きられるとすると、現在
何か悪いことをやっても、将来かならず相手に対して償いをするこ
とが可能になるからです

人間にとっての最大の他者とは、まさに人間にとって最大の内部で
ある言語である

この関係(信任関係)が成立するためには、信頼を受けた側は、自
己利益を押さえて行動しなければならない。つまり倫理性を絶対に
要請してしまう。こうして資本主義のまさに中核に信任関係、倫理
が登場する

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『資本主義から市民主義へ』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4403231055
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■目次■

第1章 貨幣論
第2章 資本主義論
第3章 法人論
第4章 信任論
第5章 市民社会論
第6章 人間論 

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