2004年8月25日

『バナナがバナナじゃなくなるとき』

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/447850234X/

本日ご紹介する本は、一口で言えば、エクスぺリエンス・マーケティングの本です。マスターカードのCMではないですが、「お金じゃ買えない価値(プライスレス)」を求めて人々は購買をする、というわけです。

では、このプライスレスなエクスペリエンスを実現するために、企業はどうすればいいのか、そのヒントを示したのがこの一冊です。

タイトルとなっている「バナナがバナナじゃなくなるとき」というのは、1950年代から続いているニューオーリンズのレストランの、伝説のメニュー「バナナフォスター」から来ています。

1950年代のニューオーリンズでは、バナナが供給過剰で安く買えたため、人々は皆バナナにうんざりしていました。ところが、やり手経営者だったオーウェン・ブレナンは、この何の変哲もないバナナを使って、炎に包まれるバナナのフランベとアイスクリームのデザートを提供したのです。

このデザートは瞬く間に話題を呼び、なんと50年後の今でも一番の人気を誇る、伝説のデザートとなったのです。

バナナでできたのだから、現在コモディティ商品とみなされている多くの商品でもできないはずがありません。成功のポイントは、商品そのものの客観的価値ではなく、その周辺にあるのです。

では、さっそく内容のポイントを見ていきましょう。

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 本日の赤ペンチェック
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消費に関するエクスペリエンスについて話すとき、それがよかったにしろ悪かったにしろ、人々はモノやサービスだけに反応しているわけではない(中略)パッケージ、マニュアル、コールセンター、商品の入手のしやすさなど周辺の要素もエクスペリエンス全体に影響を及ぼしている

インタラクションは何らかのリアクションを引き起こし、リアクションは考えや感情に結びつく。否定的なリアクションはエクスペリエンスの価値を損なうが、好意的なリアクションは少なくともどこかのレベルで価値を生む

これまで企業は価値そのものの変遷をほとんど追わずに来ているが、本当は流れをきちんと追うべきだろう。価値が大きくシフトするときは、ビジネスのやり方も大きな影響を受けるからである

バリューエクスペリエンスを創り出すためには、最初から最後まで一貫したエクスペリエンスのプロセスが必要不可欠である

あなたやあなたの商品に関係のある人が顧客に対してすることは、顧客にとってはすべて個人的な問題なのだ。(中略)モノやサービスを買うプロセスには、メリットや犠牲を創り出す機会が豊富に隠されている。仮に、このステージだけに取り組んでほかのステージは後回しにしたとしても、きっとその会社の売上げは伸びるだろう。

エクスペリエンスの観点から製品の機能や便益を見るときには、製品の特定の機能や特徴ではなく、それらが総体として顧客に与えるインパクトに注目する

犠牲をもたらさないまでも、積極的にエクスペリエンスに貢献しない物理的属性もなくしたほうがいい。顧客に価値をもたらすのでなければ、多分それは中立的な要素であり、メリットなしにコストを上昇させているかもしれないからだ

たいていの場合、顧客がいるステージを特定し、それに合わせて調整を行うことでサービスの質を改善できる

調査によれば、従業員に自らの判断で動ける裁量が与えられているほうが、顧客を満足させ、長期的な関係につながる反応が生まれやすい

行動学者によれば、顧客はすべてのイベントをエクスペリエンスとして記憶にとどめているわけではない。(中略)特に終わりのほうのイベントを鮮明に記憶しており、残りはそのイベントの記憶でなんとなく被われてしまうのだそうだ

技術や企業の持っている能力(それに顧客の価値観)をよく理解している観察者を活用することは、企業の規模や商品の種類にかかわらず、あらゆる企業にとって大きな可能性をもたらす

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著者らが述べているように、人々は、「過去の経験や教訓の蓄積のうえに成長し、常に変化し続けて」います。この変化をとらえ、大きな付加価値をもたらすエクスペリエンスを提供するには、いったいどうしたらいいのか。本書にはそのヒントが書かれています。

ただ、あえて苦言を呈するとすれば、「バリューエクスペリエンスを創り出すためには、最初から最後まで一貫したエクスペリエンスのプロセスが必要不可欠である」といっておきながら、事例に関しては、その一貫したプロセスを分析しきれていません。

この点を差し引いても、本書には読む価値があると思います。決して読みやすい文章ではないですし、「バカ売れするか」と言われたらYESとは言いづらい本ですが、真剣にアイデアやヒントを探そうとする人には、得るところが多いはずです。

というわけで、本日の一冊は、

『バナナがバナナじゃなくなるとき』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/447850234X/

です。マーケティングや流通・サービスに携わる方は、ぜひ読んでみてください。

目次

はじめに

第1部 エクスペリエンスと価値

第1章 馬と引き換えに王国を 鍵は“価値”にあり
第2章 バナナがバナナじゃなくなるとき バリューエクスペリエンス
第3章 旅の始まり エクスペリエンス・プロセス

第2部 エクスペリエンスと価値創造

第4章 つかみどころをつかめ 製品という要素
第5章 ひとり上手にならないで サービスという要素
第6章 環境にやさしく 環境という要素

第7章 贈り物 顧客より愛を込めて

訳者あとがき
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