2004年7月30日

『上司は思いつきでものを言う』

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087202402/

この本は、『桃尻娘』『窯変源氏物語』などで知られる作家、橋本治さんが書いた本です。みなさんご存知の通り、非常に良く売れている話題の書です。

ただ残念なことに、この本は、私の選書基準からいったら、絶対に読まない本です。

――支持されるビジネス書には、2種類あります。

「共感を呼ぶビジネス書」と「ためになるビジネス書」です。本当に名著と呼ばれる本は、この2つの要素を兼ね備えています。

ちなみに、この本は、明らかに前者です。

この本が支持されているとしたら、それは「この本を読むであろう」部下たちの共感を得られたからであり、何か新しい発見や、ためになる内容が盛り込まれていたからではないと思います。

この手の本には、共通する特徴があります。それは、やたらと言い回しや比喩に工夫が見られること、内容の多くが、「ことば遊び」に陥っていることです。

この本も例外ではありません。要するに、なぜ、上司が思いつきでものを言うのか、あるいは言っているように見えるのかを、組織の問題点と絡めながらだらだらと述べているのです。

この本のなかには、上司の立場と部下の立場の違いを説明するための例として、「副葬品としての埴輪」を製造・販売する会社が登場します。つまり、古墳時代から続いている会社で、当然いまは埴輪が売れなくなっている、という話です。

上司はこのままではいけないと感じており、部下に、「何かアイデアを出せ」と指示します。現場の実態と企業活動の間の乖離を感じている部下は、ここぞとばかりに企画書を作り、完璧なものに仕上げます。そのアイデアは、「埴輪を美術品として販売する」というものです。

このアイデアは、上層部がこれまで時代の変化に対応してこなかったことの責任を迫る内容のため、密かな反発にあいます。そして、なぜか突拍子もない「コンビニ経営」のアイデアが採用されます。つまり、「このままじゃまずい」という認識と「これまでのやり方を守る」という防衛本能があいまって、この「思いつき」に落ち着いたというのです。

好意的な味方をした場合、ひょっとしたらこれは、上司の立場や思考プロセスを学ぶ上で役に立つ本なのかもしれません。あるいは、組織が陥りやすい罠を説いた本なのかもしれません。しかし、それだけなら、メールマガジン一通出せば終わったはずです。

手段の目的化や社内政治、立場による見方の違いなどは、ビジネスをやっていればしばしば直面する問題であり、本を読むまでこんなことに気付かない人がいたら、それこそ問題です。

また著者は、儒教が日本の組織に与えた影響について、数十ページを割いて説明していますが、それならなぜこのタイトルで、いたずらに、読まなくて済む人にメッセージを発したのでしょうか。

非常に腑に落ちない1冊で、珍しく(?)辛口でしたが、

本日の1冊は、

『上司は思いつきでものを言う』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4087202402/

です。橋本治さんのファンや、思考遊びが好きな方にはおすすめの
1冊です。

目次

はじめに
第一章 上司は思いつきでものを言う
第二章 会社というもの
第三章 「下から上へ」がない組織
第四章 「上司でなにが悪い」とお思いのあなたへ
あとがき
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